<巨人11-7ヤクルト>◇12日◇東京ドーム

 3番手で登板した巨人山口鉄也投手(24)が打撃戦を引き締め、1回2/3を投げ無失点で10勝目を挙げた。左腕中継ぎの柱として今季58試合に登板して節目の2ケタ到達。育成出身の選手としてはもちろん初めての快挙で、新人王にもグッと近づいた。

 2日前の中日戦で今季ワーストの4失点を喫したばかり。それでも試合前から「球種によるクセを指摘してもらいました。マウンドに上がれば緊張してしまうかもしれない。でも頭の片隅に置いて行きます」と頼もしかった。シーズン冒頭。「今年は打たれても下を向きません。約束です」と誓った。102→99→47と若返る背番号に比例し、心技体を磨いた3年間。中継ぎでの10勝は勝負の分岐点を任され続けた証しだ。「みなさんが点を取ってくれたおかげです」と言ったが、胸を張っていい。

 入団テストを経て、05年ドラフトで育成選手として巨人の門をたたく前、米独立リーグに挑戦し、単身で3年間もまれている。控えめな左腕には、いきなりメジャー挑戦を公表し、去就が注目される新日本石油ENEOS・田沢がまぶしく映る。「ボクなんか比べものにはなりません。挫折からのスタートでしたからね」。年俸250万円からスタートし、支配下に、1軍に食い込んだ。球団からの退寮の勧めは「自分にはまだ早いです」と断り、マイカー通勤の許可が出ると、先輩の加藤が乗り込んだ車を安価で譲ってもらった。「投げることがあるだけ幸せですから。うれしい」。原点を忘れない言葉。山口にしか出せない輝きがあった。【宮下敬至】