<DeNA5-4阪神>◇25日◇横浜

 敗戦確定の3時間半以上も前、確かに虎党は笑っていた。阪神マット・マートン外野手(32)の先制打には勝利への希望が詰まっていた。雨で29分遅れてのプレーボール。モヤモヤで始まったファンの心は、その瞬間吹き飛んでいたはずだ。

 マートン

 積極的にファーストストライクから、自分のスイングをすることを心がけていたよ。

 試合開始遅れにより、2四球と乱調のモスコーソを捕まえた。1回1死満塁のチャンス。外角直球を呼び込み、逆らわずに右方向に運んだ。先制の2点二塁打だ。リーグトップの打率を誇る男が、前日24日は勝利の陰で5打数無安打に終わっていた。この日、試合前は打撃練習後に30分間の「おかわりティー打撃」でミートポイントを修正。繊細な感覚を即日修正し、天候による先攻の優位性をきっちりと生かした。

 マートンの一打にファンのボルテージは上がった。他の選手と違う要因の1つにレフト守備でのルーティンがある。どんな試合展開でも味方が1アウトを重ねるごとに、スタンドに向かってアウトカウントを右手で掲げるのだ。指を1本立て「1アウト」と振れば、ファンも同じポーズで返答する。球場でしか見られない貴重な光景だ。「自分もやっていて楽しいし、ファンにも楽しんでもらいたいからさ」。メジャーデビューを果たしたカブス時代から欠かすことなく続けている儀式だ。そんなマートンが作り上げた雰囲気には、続く福留孝介外野手(37)が乗った。

 福留

 マートンがつないでくれて流れの中で打てて良かった。立ち上がりだったし、点を取りたかった。

 なおも続く1死二、三塁。速い変化をする142キロシュートを、福留らしく痛烈な当たりで中前に運んだ。2点適時打で計4得点。勝負どころを知るベテランはきっちり役割を果たした。鮮やかな先制劇だった。

 それでも2回以降は0行進。マートンは試合後「負けたから」と多くは話さず、福留も「目の前の試合をどうやって勝つか」と淡々と話した。唯一の攻撃での収穫を、甲子園では無駄にできない。【松本航】