<プロ野球ドラフト会議>◇23日

 28歳のオールドルーキーが誕生する。社会人野球のクラブチーム室蘭シャークスの左腕、瀬川隼郎(28=北海)が日本ハムに5位で指名された。妻も息子もいる社会人10年目の左腕は、指名直後のTV中継内で早くも入団を宣言。最速148キロの速球と100キロ台のスローカーブを操る緩急自在の投球で、家族と父、亡き母への恩返しを誓った。

 指名の第一報を受けたのは、テレビ局のインタビューの最中だった。リポーターから「日本ハムの5位です」とマイクを向けられると、目がうっすらと潤んだ。「野球をしている姿を母親に見せられないのが残念。本当にうれしいです」と、声がふるえた。

 9年前、高卒で室蘭シャークスに飛び込んだ。進学の道もあったが、父と3人兄妹の家計は苦しく、働きながらプレーできる社会人を選んだ。朝8時から夕方5時まで鉄の強度を研究。夕方からの全体終了後に個人練習。すべて終わった時には、日付が変わることもあった。「まだまだ上に行けると思って続けた」。今夏の都市対抗ではJR東日本を相手に7回まで1失点の好投。球速も自己最速の148キロを記録した。

 北海時代は父の和郎さん(53)が朝食と夕食を作り、昼の弁当も持たせてくれた。母の元美さん(享年34)は瀬川が小2の時に他界。このドラフト前に、その父が、死の直前の母から預かった手紙を見せてくれた。書面には「いつもとおくからみまもっているからね。バイバイ」とあった。「好きな野球を元気にやらせてくれて感謝の気持ちしかありません」と言った。

 1年半前に結婚、昨冬に長男も誕生した。ドラフト2日前にプロ入りを相談すると、妻の泰葉さん(31)は「好きなことをやりなさい」と、背中を押してくれた。栗山監督は「急速に伸びている投手。左がうちは全然いない。(先発、中継ぎ)どっちも必要。(即戦力は)もちろんもちろん」と期待する。「年々球速も上がっていますし、まだまだ伸びる」と瀬川。28歳のパパがプロ野球選手になる。【中島洋尚】

 ◆瀬川隼郎(せがわ・はやお)1986年(昭61)10月21日、札幌市生まれ。札幌もみじ台中時代は札幌白石シニアに所属。北海高では2年秋の全道4強入りも甲子園出場経験はなし。05年室蘭シャークス入り。都市対抗は補強も含め4度、日本選手権にも2度の出場経験がある。日鉄住金テクノロジー勤務。家族は妻と1男。177センチ、84キロ。左投げ左打ち。