「年俸120円だったくせに結婚したんだ」

みたいなコメントをもらうことがあるが、現年俸120円とは一言も言っていない。

「我々はしっかりだまされたわけだ」みたいなコメントも見られるので本当に言葉にならない。

僕はお金を稼いでいた時期もあれば、全て捨てていた時期もある。後輩全員に食事をごちそうした時期もあれば、19歳の後輩にご飯をごちそうになっていた時期もある(笑い)。

右から左へと多くの経験をしているからこそ今の自分があるし、それがあるからこそさまざまな視点を持ち、物事をいろいろな角度で捉えることができると思っている。

僕は2023年3月21日に結婚した。離婚歴があるので、今回で2度目の結婚だ。妻も同じで離婚歴があり、子どもが2人いる。僕には本当にもったいないくらいすてきな女性だ。

そんな彼女とお互いの人生を交差させながら、日々葛藤しながら毎日を送っている。少年や中高生の育成には携わってきたし、発達障害を抱える子どもたちや引きこもりや、やんちゃで不登校の子どもたちとも関わってきた。そんな経験があるから息子や娘がどんなことをしようが僕は大丈夫だと思っている。

しかし、現実はそう簡単ではない。親という立場になれば冷静ではいられなくなり感情に左右される。子育てを初めて1カ月未満のやつが何を言うんだという批判は理解しながらも、そもそも子育てという正解のない挑戦を僕は楽しんでいる。

こうやって言うと「それは自分の子じゃないからそんなことが言えるんだ」と言われそうだが、果たしてそうだろうか? 僕にとっては息子と娘だ。娘には「アビさんは家族じゃない」って言われたりもして落ち込むこともあるが、決して間違ったことを彼女は言っていない。

息子や娘が僕をどう思うかが大事なのではなく、僕が彼や彼女をどう思うかが一番大事だと思っている。長男は15歳。長女は8歳。簡単ではない年頃だが、だからと言って遠慮はしない。究極、嫌われてもいい。

2人にとって大事なのは今この瞬間だけでなく、今この瞬間を思いっきり生きられる20代の2人の未来をみて、今、伝えるべきことを伝えたい。それは時に口うるさく面倒くさいことでもある。でも、それが必要であれば嫌われそうな恐怖をグッと堪えて伝えなければならない。

ただ、気をつけなければいけないのは、その時の感情だけで怒ったり褒めたりすること。僕はできるだけその感情をコントロールするようにしている。もちろん僕も人間なので、「うるさいなあ」とか「今日は疲れているから遊べない」など、自分を優先してしまう時はある。その時は我慢して子どもを優先するようなことはしない。これから先はまだまだ長いから(笑い)。

自分が疲弊してしまっては子どもの未来どころか今をつぶしかねない。それでは大人である意味がない。子どもは自分のものではない。子どもは社会の一員であり、次世代をつなぐ大事な役割を担っている。

子どもを見ていると脱いだ服は脱ぎっぱなしで、食べてたものを散らかしたままにしている時がある。部屋を汚されると気分が悪くなり、怒りたくなるが、冷静になると僕はもっと汚くしていたなと思い返す。今になって母や父に感謝の思いが込み上げてくる。

だからといって散らかしたものをそのままにするわけにはいかず、僕が片付けている時もある。これでいいのかな…そんな葛藤をしながら甘やかすというラインといつもせめぎ合っている。

結婚するまで北海道に住んでいた妻と子どもたちは初めての東京暮らし。きっとすごく頑張っていると思う。子どもながらに一生懸命現実と向き合い、必死に今を生きようとしている。そんな努力を無視してはいけない。

だからこそできるだけ感情では動かず、未来と比べる。もちろん未来なんてどうなるかわからない。明日が来るかどうかすらわからない現代で、何が想像できるかなどわからない。ただひとつ言えるのは、僕が生きてきた幼少期や学生時代とは全く違うということ。そこに答えはない。

学校に行く行かないもそこに善悪はない。ただし、学校に行かないという選択をしたならば、今度はその責任が発生する。行かないなら、寝坊も許され、勉強もしなくていい…それは全く違う。行かなくても朝は起きてもらうし、朝食をとり、そこからベッドには戻さない。自分のものは自分で洗濯をして、食べたものは自分で片付ける。家庭内でやるべきことはたくさんある。

毎日いろいろなことと葛藤を繰り返す日々だが、そもそも正解のない子育てに正解とは何だろうと考えることがナンセンス。息子と娘が、将来自分の人生を思いっきり楽しく生きてもらうことが全て。それがきっとどこかで誰かのためになり、社会に貢献できる人材になってくれるはず。

たった1度しかない人生を、どう生きるかは自分で決めてもらう。そのためにはこちらも本気で向き合い、刺激を与えて感性を育てる。そしてたくさんの愛情を注いで、どんなことがあっても愛されているんだよというメッセージだけを残し続けていきたい。

新米パパの葛藤はこれからも続くが、間違いなくこの瞬間を僕は楽しんでいる。安心安全にトラブルを起こせるのが学校だとしたら、家庭は愛情たっぷりにそのトラブルをどう乗り越えさせるかを伝える教養を身につけさせるところだと思う。これからもトラブルを楽しみながら、家族のために今まで以上に挑戦をしていこうと思う。

◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結んだが開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退し、格闘家転向を表明。21年4月にアマチュア格闘技イベント「EXECUTIVE FIGHT 武士道」で格闘家デビュー。プロとしては22年2月16日にRISEでデビューを果たした。プロ格闘家としては通算2勝1分け1敗。175センチ

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「元年俸120円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)