相撲の担当もしている。秋場所は関脇御嶽海が、2度目の賜杯を手にした。9月23日、千秋楽からの一夜明け会見に行った時、へ~と思う言葉があった。

「大学の監督から教わったことで…」

3回ぐらい口にしたか。プロの大相撲で来場所には大関取りを目指そうというお相撲さんが、だ。それが悪いと言うつもりは毛頭ない。むしろ感心した。親方衆や先輩力士から「もっと稽古したら、もっと強くなる」と言われてもマイペースを貫き、結果を残してきた御嶽海に、あれこれ言わず“放任”する師匠の出羽海親方(元前頭小城ノ花)の懐の深さに。そして、アマチュア相撲という土壌の確かさに。

さて、ボクシングの話をします。

8月31日、岐阜工で全日本選手権東海ブロック予選に行った。元世界主要4団体ミニマム級王者の愛知県代表・高山勝成(36=名古屋産大)のアマ転向→東京五輪挑戦を取材するためだったが、高山が負けた。相手は三重県代表宇津輝(日大3年)。最高キャリアは久居高でインターハイ5位(ライトフライ級)だから…とても日本代表クラスとは呼べない。

ある先輩記者に言われた。「元世界王者が地方予選で全国的に有名でも何でもない若手選手に負けるって、どうやねん? 情けないんちゃうの?」

う~ん…とちょっと考えたが、反論した。

「いや、そんだけアマチュアが侮れんし、難しいんと違いますか」

アマチュアが侮れん根拠の1つは、プロボクシングの現状を見たら、わかる。

バンタム級で「モンスター」と世界的に認知されとる井上尚弥。

海外で層の厚さが圧倒的なミドル級で世界を取った村田諒太。

世界最速タイで3階級を制覇したWBOフライ級王者田中恒成。

プロ5戦目で世界を奪った2階級覇者のWBA世界ライトフライ級スーパー王者京口紘人。

五輪金メダリストの村田を筆頭に、みんなアマチュアからの転向者です。

私もボクシング取材はプロの現場がほとんどですが、一昨年秋、国体少年の部を取材して衝撃を受けました。フライ級の中垣龍汰朗(当時、宮崎・日章学園)バンタム級の堤駿斗(同、千葉・習志野)ライト級の今永虎雅(同、奈良・王寺工)ウエルター級の荒本一成(同、奈良・王寺工)。4人とも優勝し、現在は関東の大学リーグで活躍中ですが、その戦いぶり、攻守の技術の高さに「プロの8回戦でもいけるんちゃう?」とたまげたもんです…いや、全く素人目からみた感想なんですがね。

もうひとつ、アマチュアの難しさの根拠は、競技性の違いという点。プロは世界戦で最長3分×12回で、アマは3分×3回の短期決戦。実際、高山は「1回にペースを握られて、焦ってしまった。これが6回、10回あれば巻き返せるけど、1回取られたら、2、3回取らないと負けですから」と話してました。グローブは形状、重さとも違うし。

あと付け加えるなら、本来はミニマム級の高山が、五輪採用される階級を見越し、2つ上のフライ級で戦わなあかんかった不利さもあるでしょうか。

フィールドの最終的なレベルで言うなら、アマチュアよりプロの方が高いかもしれません。しかし、アマチュアで磨かれる技術の高さは、プロに決して劣るものではない。そこは間違いないんやないでしょうか。【加藤裕一】

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)