関脇正代(28=時津風)が悲願の初優勝を飾った。ただ1人2敗と初めて単独トップで迎えた最後の相撲。今場所をわかせてきた新入幕の翔猿(追手風)に勝ち、13勝2敗で優勝を飾った。

小兵の翔猿に攻め込まれたが何度も体勢を立て直し、最後は土俵際で逆転の突き落としを決めた。花道では涙を流し、タオルで顔をぬぐった。

正代は「信じられないです。初顔合わせで意識もしたし、やりづらさも感じた。相撲人生で一番緊張したと思います」と落ち着いた様子で話した。

打ち出し後、伊勢ケ浜審判部長(元横綱旭富士)が大関昇進を諮る臨時理事会の招集を八角理事長(元横綱北勝海)に要請した。大関昇進が現実的になったが「実感がわかない。分からないです。相撲界に入る前から憧れの地位でした。まだ信じられない」と話した。

13勝をあげた今年初場所、11勝の7月場所と千秋楽まで優勝争いに絡みながら賜杯を逃した。ただ、その経験から「メンタル的に余裕でもないが、気持ちの持っていき方を学んだ」と話していた。立ち合いの馬力をつけ、磨いてきた相撲が優勝という形で開花した。

東農大2年時に学生横綱となった。恵まれた体で将来を嘱望された大器は、約2年で入幕を果たし、関脇までトントンと出世を果たし、そこから壁に当たった。自らも認めるマイナス思考の「ネガティブ力士」。ここ一番の勝負弱さが課題だったが、その殻を打ち破り、熊本出身力士で初の優勝という栄誉を手にした。

正代が勝てば、花火を打ち上げて祝う故郷の熊本・宇土市も、市民体育館で応援会を開催し、盛り上げてきた。大横綱双葉山からの名門・時津風部屋からは、元大関北葉山以来57年ぶりとなる優勝。新型コロナウイルス禍で行われた異例の場所で、眠っていた大器の才能が花開いた。

◆正代直也(しょうだい・なおや)1991年(平3)11月5日、熊本県宇土市生まれ。小学1年から相撲を始め、熊本農3年時に国体優勝。東農大に進み、2年時に学生横綱も卒業を優先してプロ入りせず、14年春場所に前相撲で初土俵。序ノ口、幕下、十両で優勝し16年初場所新入幕。184センチ、170キロ。得意は右四つ、寄り。