相撲ファンから「下で当たる力士がかわいそう」という声が、SNSなど一部で広がっている。日本相撲協会は11日の臨時理事会で、緊急事態宣言中の夏場所前に複数回キャバクラに行くなどし、日本相撲協会が定める新型コロナウイルス対策のガイドラインに違反した大関朝乃山(27=高砂)の出場停止6場所と6カ月50%の報酬減額の処分を決めた。来年名古屋場所で復帰する見通しの朝乃山は、三段目まで番付を下げることが確実。ネットでは幕下以下の力士が「割りを食う」ことや、力量差から対戦時にケガを負う危険性が高まることなどを懸念する意見もあった。

朝乃山と同じようにガイドライン違反を起こし、黒まわしで再出発した阿炎(27=錣山)の場合はどうだったか。幕内だった昨年7月場所前や場所中にガイドラインに違反して不要不急の外出を繰り返し、出場停止3場所などの処分を受けて3月の春場所で幕下下位から復帰。力の差は歴然で、2場所連続で7戦全勝の幕下優勝を果たして関取復帰を決めた。

実際に対戦した力士の反応はさまざまだった。夏場所の5番相撲で対戦した高砂部屋の関取候補、幕下の寺沢(25)は「(阿炎は)所作の1つ1つから全然違った」と振り返る。最近まで三役として活躍していた力士と、本土俵で対戦する場面はめったにない。「雰囲気、オーラみたいなものは感じたか」と聞くと「感じました。勉強になる一番でした」と即答した。

春日野部屋のホープで幕下の塚原(21)は、6番相撲で阿炎に完敗。阿炎とは同じ埼玉県越谷市出身で、地元の相撲クラブで何度も胸を出してもらった“先輩”だけに、期するものがあったという。「小学校から一緒のクラブであこがれていた先輩。近いうちにもう1回、上でやりたいです」と塚原。出世の糧にするという意思が感じられた。

一方で実際に阿炎と対戦があったわけではないが、成績次第では対戦する可能性があった、ある幕下力士に夏場所後に話を聞いた。「対戦すること自体は仕方ないと思っていますし、それは言い訳になってしまうこと」と前置きした上で、こう漏らした。「でも正直『当たったら最悪だな』というのはありました。見ていても全然(阿炎の実力は)違いますし…」。

朝乃山の復帰土俵はまだ1年も先の話だが、対戦する力士の立場や心中も、注意深く観察したい。【佐藤礼征】