佐渡ケ嶽部屋から、また優勝力士が誕生した。先代師匠(元横綱琴桜)が大関時代に優勝してから、琴勝峰が10人目。60年以上も幕内力士を絶やしていない佐渡ケ嶽部屋は、またも好循環を生んだ。関取が下のものを引っ張り上げて伝統をつないでいる。
◇ ◇ ◇
琴勝峰の師匠、佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)は験を担いでいた。いつもと同じく、IGアリーナ内の広報部の部屋でテレビを見ていた。
勝てば琴勝峰の優勝が決まる安青錦戦。「よし! いけ!」。同席していた荒磯親方(元関脇琴勇輝)が声を上げた。思いが届いたように、琴勝峰が勝った。
その瞬間から、佐渡ケ嶽親方の涙が止まらない。左手で目を拭いながら泣いていた。
「最高ですよね。自分が育ててきた弟子が、こうやって優勝してくれるのは…」。昨年九州場所の大関琴桜に続いて、佐渡ケ嶽部屋から賜杯を抱く力士が生まれた。
佐渡ケ嶽部屋は、部屋別総当たり制となった1965年初場所から、幕内力士が途切れたことがない。当時幕内力士を輩出していた部屋の中で唯一だ。番付上位の力士が、稽古場で下位の者を鍛えて引っ張り上げる。
部屋付きの荒磯親方は、琴勝峰がスランプに陥った時のことを忘れない。
琴勝峰は入門から1場所の負け越しを挟んだだけで、3年以上も番付を上げ続けた。ところが、前頭3枚目で2勝13敗と大敗した。2021年初場所のことだ。
その後、壁に当たった琴勝峰は、稽古場で元気をなくした。
荒磯親方は、こう回想する。
「稽古場で覇気がなかった。北を向く(角界の隠語でふてくされる)ことがありました。突然のスランプでうまくいかないもどかしさがあったのでしょう。当たっちゃいけないところに当たっていた。汗をふきながら師匠に返事をしたり。首をかしげてみたり。関取がそうやっても、若い衆は何も言えません」
当時、現役晩年だった荒磯親方は、心を鬼にして稽古をつけた。
「後釜を育てるためです。泥くさくやって、刺激になればと思いました」
荒磯親方は、琴勝峰の成長につながった分岐点をもう1つ挙げる。
琴勝峰の弟、琴栄峰の成長だ。今場所は琴栄峰が新入幕を果たしていた。
「弟が入ってきて、忘れかけていた力士としての火が燃えた。弟は兄に追いつけと、兄は抜かされてたまるかと。それまで琴桜と比較されてきましたが、比較するには(琴桜が)上すぎる。ちょうどいい発憤材料ができたと思います」
互いが刺激し合い、成長につなげる。番付上位が下位を鍛え上げる。相撲部屋の理想的な環境だ。
佐渡ケ嶽親方は「欧洲が出て、そのあと奨菊が出て、奨菊が今度、恵光と勇輝と桜と勝峰を引っ張り上げる。桜が今度、栄峰を引っ張り上げる。順番だと思うんですよね」と明かす。
今回の琴勝峰の優勝は、大関琴桜の刺激になる。
「今まで桜が注目されてきて、今回は勝峰が注目を浴びるわけです。琴桜が『オレは何をやっているんだろう』と思って続かないといけませんよね」
佐渡ケ嶽親方はかねて、琴桜と琴勝峰に東西の横綱を張らせたいと考えている。「来場所は勝峰と桜が優勝決定戦をやってくれたらうれしいですね」と期待を寄せていた。【佐々木一郎】

