25年前に公開された「ライオン・キング」は、世界の観客動員でアニメ史上1位に輝く文字通りの不朽の名作である。

四半世紀の技術革新で、この作品がフルCGの「超実写版」として再映画化された(9日公開)。

今の技術なら、文字通り毛の1本まで再現できることは頭では理解できる。その頭はカメラワークで切り取られる映像のありようを長年「映画」という枠組みで染みこませている。この枠をはみ出た映像は「不自然」ということになりかねない。

そんな観客の感覚を意識して、アカデミー賞ノミネート5回という撮影監督のキャレブ・デシャネルは「VR空間」で行われる「撮影現場」に従来の「機材」を持ち込んで、撮影現場らしい空間を再現したという。分かったようで、なかなか実感を持ちにくい話だが、これも何となく頭では理解できる。

最先端の手法で創り上げられたアフリカのサバンナは、さながら英BBC制作のドキュメンタリーで見た世界そのままだ。ただし、本来なら捕食する側とされる側が時として言葉を交わし、身を寄せ合う。

「ジャングル・ブック」(16年)で知られるジョン・ファブロー監督は、ひたすら野生動物の再現に腐心している。表情に感情は宿るのだが、飼い犬の思いを飼い主がなんとか解釈するレベルの動きで、動物らしさを超えない抑制的な演出だ。今年3月に公開された「ダンボ」のようなマンガ的な誇張はない。

ライオンの王ムファサの息子として生まれたシンバが、叔父スカーの策略で王国を追われ、過酷な旅を経て成長する物語はいまさらおさらいする必要もないだろう。

ヒヒの祈祷(きとう)師ラフィキが生まれて間もないシンバを掲げ、王国の動物たちにお披露目するシーン、ムファサがヌーの暴走に巻き込まれるスペクタクル…二次元のマンガ世界が「実写」で目の前に現れ、改めて息をのむ。アニメ、ミュージカルで想像を膨らませてきたが、初めて見る「本物」にはやっぱり心を揺さぶられる。正直に言えば、大自然を背景におなじみ「サークル・オブ・ライフ」が流れた冒頭だけでグッと来た。

試写では日本語吹き替え版(賀来賢人、江口洋介、門山葉子ら)を見たのだが、動物たちが言葉をしゃべるのがどうしても不自然に見えてしまうのも、その姿があまりにも「自然」だからだろう。これは英語版(ドナルド・クローバー、キウェテル・イジョフォー、ビヨンセ)でも同じだと思う。

アニメやミュージカルの誇張、擬人化表現に慣れてしまっているからだろうか、見た目がありのまま過ぎる動物たちには一周回って物足りなささえ感じてしまう。

そんな微妙な感覚も含め、この作品には一見の価値がある。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)