70年代から80年代にかけて活躍した伝説のロックバンド「クイーン」の誕生から20世紀最大のチャリティコンサートといわれた1985年に行われた「ライブエイド」まで華やかな成功の裏に隠された知られざる物語を描いた映画「ボヘミアン・ラプソディ」でフレディ・マーキュリーを熱演したラミ・マレックのこん身の演技は、「実物そっくり」と大絶賛されています。映画のタイトルにもなっている「ボヘミアン・ラプソディ」や「ウィ・ウィル・ロック・ユー」「キラー・クイーン」など数々のヒット曲を世に送り出してきたクイーンにおいて優れた歌唱力と独特なスタイルでカリスマ的人気を誇ったマーキュリーを演じたマレックは、ドラマ「MR.ROBOT/ミスター・ロボット」のハッカー役で知られていますが、本作では見事にロックミュージシャンに変貌し、圧倒的な存在感を見せつけています。マーキュリーが1991年にエイズによる合併症のために45歳の若さで亡くなってから27年。スクリーンに甦ったマーキュリーの姿にクイーンの往年のファンも熱狂しています。

ハリウッドでは過去にも実在した偉大なミュージシャンを演じてオスカーに輝いた俳優は少なくなく、マレックにもオスカー候補の呼び声が高まっています。誰もが知る有名なミュージシャンを演じることは大きなプレッシャーを伴いますが、今年の賞レースを前にマレック同様に見事に本人になりきってその演技が大絶賛されて栄光を手にした俳優たちを振り返ってみました。

◆ジェイミー・フォックス/レイ・チャールズ

2004年に「Ray/レイ」でソウルの神様といわれた盲目の音楽家レイ・チャールズを熱演してオスカーを手にしたのは、ジェイミー・フォックス。歌手を目指していたといわれるフォックスは、本作で素晴らしい歌声を披露しただけでなく、ピアノ演奏も自らこなす徹底ぶりでチャールズになりきり、18歳から49歳までの30年間を見事に演じきりました。その演技は演技指導を行ったチャールズ本人からも絶賛されるほどだったといいます。

◆マリオン・コティヤール/エディット・ピアフ

「エディット・ピアフ~愛の讃歌~」(07年)でフランスの国民的シャンソン歌手エディット・ピアフの波乱に満ちた生涯を演じたのは、仏人のマリオン・コティヤール。愛と歌に人生を捧げ、47歳という若さで亡くなった歌姫ピアフを熱演したコティヤールは、仏語の演技ながらこの年のアカデミー主演女優賞に輝きました。劇中の歌は口パクでの演技でしたが、違和感がない見事な発声と息遣いでこの難役を演じきったことで、女優としてハリウッドでの知名度が急上昇し、「インセプション」(10年)などの話題作に出演する売れっ子となりました。

◆リース・ウィザースプーン/ジューン・カーター

「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」(05年)でジューン・カーターを演じてオスカーを手にしたのは、リース・ウィザースプーン。カーターは日本ではあまり知名度はありませんが、50年代にエルビス・プレスリーと共にロカビリーの黄金時代を築き上げたことで知られ、2003年に他界するまで全世界で5000万枚以上のレコードを売り上げ、グラミー賞を11度受賞したカントリー界のカリスマです。「キューティ・ブロンド」シリーズなどラブコメの女王として知られたウィザースプーンですが、本作では劇中で披露した歌は全て自ら歌っており、まるでカーターが乗り移ったかのような迫真の演技が称賛されました。

◆ケイト・ブランシェット/ジュード・クィン(ボブ・ディラン)

6人の豪華キャストが伝説的アーティスト、ボブ・ディランの半生をそれぞれ異なった角度から演じた異色の伝記映画「アイム・ノット・ゼア」(07年)で60年代のディランをほうふつさせるキャラクターを演じたケイト・ブランシェットは、女優が男性のディランを演じるという偉業を成し遂げ、アカデミー賞助演女優賞にノミネートされました。ディランの持つ雰囲気を見事に醸し出したブランシェットは、その年のゴールデン・グローブ賞を受賞しています。

ハリウッドでは、今後も伝説の音楽家たちの伝記映画の企画がめじろ押しで、来年にはエルトン・ジョンの半生を描くミュージカル映画「ロケットマン」が公開を控えている他、今年8月に死去したアレサ・フランクリンの伝記映画もジェニファー・ハドソン主演で制作が進められており、公開が待ち望まれています。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)