女優宮沢りえ(44)は「魔女」なのか。

 2月28日に「第25回読売演劇大賞」贈賞式が行われ、大賞と最優秀女優賞をダブル受賞し、背中全開のドレス姿で登場した。

 ダブル受賞は故杉村春子さん、故森光子さん、黒柳徹子、大竹しのぶという、日本の演劇史に残る大女優たちに続いて5人目。宮沢も「(過去の受賞者の)名前を聞いて、ひざが震えました。賞の重さ、歴史を感じて、本当に頂くのには覚悟が必要と思いました」。

 最優秀女優賞のプレゼンターを前年の同賞受賞の鈴木杏が務めた。宮沢とは4回共演している鈴木は「りえさんには『ストーカー』と呼ばれています。共演する度に、人を引きつけて離さない力がどんどん増していて、もしかしたら、りえさんは魔女なのかな思っていました。今日、過去のダブル受賞した方の名前を聞き、やっぱり魔女だと思いました。これから、さらにパワーアップして魔女になっていくりえさんをストーカーできるように、私も精進したいと思います」と祝福した。

 宮沢は野田秀樹作・演出「足跡姫~時代錯誤冬幽霊」で歌舞伎の始祖でもある3代目、4代目の出雲の阿国、吉田大八作・演出「クヒオ大佐の妻」では古いアパートでミシンを踏みながら、大佐の帰りを待つ疲れた妻役、ケラリーノ・サンドロヴィッチ演出のチェーホフ劇「ワーニャ伯父さん」では退屈な日々に鬱々(うつうつ)とするエレーナと、まったく異なる3つの役の演技で受賞した。その変幻自在ぶりは、鈴木の言うように「魔女」という言葉にピッタリかもしれない。宮沢は「登るのに爪がはがれるんじゃないかと思うぐらい、高すぎるハードルを与えてくださったプロデューサーの方、ダメ出しばかりでちっとも褒めてくれない演出家の方たちのおかげで、私は今ここにいるんだと思います」と冗談交じりに感謝を表したが、人は「魔女」により高いハードルを科し、安易に褒め言葉は言わないのだろう。

 野田作品で本格的に舞台に進出して15年がたった。さまざまな演出家との出会いがあったが、中でも、演出家蜷川幸雄さんが生前、ある俳優に稽古場で言った「もっと自分を疑えよ。何でもっと自分を疑わないんだ」という言葉が心に残っているという。受賞挨拶は「ある役に向かい合って、ある人間を生きるには、本当にこれでいいのかな、この自分でいいのかなと疑い続けることは、誠実さにつながると思います。今までもそうですが、これからもそれをテーマに、表現者としてひたむきにまいりたいと思います」と締めくくった。

 今年1・2月に秋元松代の名作舞台「近松心中物語」に出演した。過去の蜷川演出では太地喜和子、田中裕子、冨司純子、高橋恵子、樋口可南子、寺島しのぶらが演じた遊女梅川に、今回はいのうえひでのり演出のもとで挑んだ。昨年は3本の舞台に出た宮沢だが、今年は「近松-」以降の予定はないという。宮沢りえという「魔女」は、次はどんなことで私たちを驚かせてくれるのだろうか。【林尚之】