「ケリガン襲撃事件」に聞き覚えのある方は多いだろう。94年フィギュアスケート全米選手権の会場で、優勝候補と目されていたナンシー・ケリガンが何者かによる襲撃を受け、右膝を殴打された衝撃の事件だ。ナンシーのライバルだったトーニャ・ハーディングの元夫やボディーガードが犯人として逮捕され、関与の疑いをかけられたトーニャも転落人生を歩んでいく。

 スキャンダラスでドラマチックなこの事件が、本人や当事者たちのインタビューに基づき、映画になった。

 食い違う多数の証言を映画にまとめるのは、容易でなかったはず。それでも、時系列に沿ったドキュメンタリータッチで、ユーモアも交えテンポよく、物語は展開していく。丁寧に描かれたトーニャの人生に、これまで抱いていたイメージをガラリと変えられる方も多いはずだ。

 トーニャは現在、3番目の夫と子供と幸せに暮らしているという。ただ、事件の真相は今でもはっきりしないままだ。スッキリしないながらも楽しく映画を見てしまうのは、本能がスキャンダルを求める人間の性なのだろうか。それにしても、題材がいい。「事実は小説よりも奇なり」だ。【杉山理紗】

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