役所広司がカンヌ映画祭で主演男優賞を取ってから7カ月。待望の作品だ。
平山(役所)は渋谷の公衆トイレ清掃員だ。スカイツリーを見上げる下町の木造アパートに独り暮らし、特化した手作り道具を積んだミニバンで現場に通う。
仕事の合間には、木々を見上げてほほ笑む。名匠ヴィム・ヴェンダース監督が切り取る木漏れ日の映像は、日本画のように美しい。迷子の幼児やだらしない後輩(柄本時生)にも優しい。行きつけの露店で飲む業後の1杯。宮沢賢治の「雨ニモマケズ」をほうふつとさせる毎日だ。めい(中野有紗)の乱入など、騒々しくなる後半にも「幸せな清掃員」を貫く役所に説得力がある。やはりうまい。
自室は最小限の品で整えられ、時が止まったようにカセットテープと文庫本が並ぶ。往年のロック名盤や江戸前文体の幸田文の本がフィーチャーされ、展開の継ぎ目に効いている。監督の趣向が、良き時代の日本らしさにうまく絡み、平山のインテリぶりや若い頃への想像を膨らませる。
マニアックな海外観光客に意外な名所を知らされる昨今だが、この作品はその先の、忘れてしまった日本の美徳を教えてくれる。【相原斎】
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