見終わった後、だれかと感想を語り合うのはあまり好きではないが、この作品は違った。不穏な流れの中、おそらく人によって解釈が異なり、見終わった後に「結局、こういうこと?」。洞察力を試されるような余白が多く、だれかと無性に話したくなった。
ノーベル文学賞作家カズオ・イシグロ氏の同名小説を、第46回日本アカデミー賞最優秀作品賞「ある男」の石川慶監督が実写化。被爆から間もない1950年代の長崎と、主人公・悦子が移住した80年代の英国が舞台。時代と場所を超えて交錯する「記憶と忘却」の秘密を描く。
登場するのは、戦争で傷つきながらも、前へ進もうとする人々だ。長崎で原爆を経験した若き日の悦子を広瀬すず、80年代を生きる悦子を吉田羊がそれぞれ演じ、ミステリアスな女性、佐知子を二階堂ふみがパワフルに好演。緩急をつけた広瀬の演技と二階堂の深みのある演技が響き合い、観客の心を揺さぶる。
5月に行われたカンヌ国際映画祭でも高い評価を受けた本作。わかりやすさに主眼に置く映画が多い中、もう1度、見てみたいと思える奥行きの深い作品だ。【松浦隆司】
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