AKB48グループ3代目総監督の向井地美音(22)が各界のリーダーから学ぶ「リーダー論」の第10回は、「第97回東京箱根間往復大学駅伝」(来年1月2、3日)で連覇を狙う、青学大・原晋監督(53)の登場です。前編は、リーダーとして必要な資質や、組織を動かしていく時に大切なことについて直撃。AKBでの活動にも通ずるものがありました。【取材・構成=大友陽平】(今回の対談は今秋に実施しました)
向井地 AKB48グループで総監督を務めている向井地美音と申します。よろしくお願いします! AKBのことはご存じですか?
原 もちろんです。彼女たちの総選挙のスピーチの言葉を、ミーティングで引用したりもしますよ。
向井地 本当ですか! うれしいです。
原 18~22歳の子たちを相手にするので、アイドルグループのことも知っておかないと、話が合わないしね。曲にも元気をいただいてますよ。
向井地 ありがとうございます。早速ですが「リーダーに必要な資質」は何ですか?
原 簡単に言うと「人間的な魅力」ですね。では人間の魅力とは何なのか。私は「人間の魅力=夢を語れること」だと思ってるんです。ただ夢といっても、夢物語で終わってしまっては誰もついてこないので、夢に向かう筋道をちゃんと立てて、半歩先の目標を達成していく…。「あ、この人についていけば、この夢は実現するんだろう」と思わせることが、人間的な魅力と感じます。
向井地 半歩先の目標…
原 個人とチームというのがあるけれど、向井地さんは現場のキャプテンで、トップリーダーとの中間管理職的な立場だと思うんだけれども…
向井地 よく言われます!
原 組織に約300人のメンバーがいる。だから夢の実現のためには、中間管理職がより分かりやすく説明したり、仕掛けを作ることが大切です。ただメンバーは全員能力が違うわけだから、例えば総選挙とかで順位がついたとして、300位の子の基準を、1位の子と同じに合わせたら、300位の子は嫌になっていってしまう。だからポジショニングを正しく伝えていって、その子の力を見極めてあげて、半歩先の目標を示してあげる。そうしていけば、結果的に全体としては押し上がっていくわけです。
向井地 研究生だったら、研究生としての目標を示してあげるということですね!
原 そうです。1番には1番の役割があって、300番には300番の役割がある。ただその300番を否定していったら、足を引っ張る人間も出てきてしまう。それぞれを認め合う文化を作ることが大事です。
向井地 青学大では、キャプテンなどを務めるメンバーに、引っ張る立場としてのアドバイスをしたりもするんですか?
原 私からは、切り捨てない文化で、「哲学・理念の共有をしっかりしていきなさい」と言ってます。理念の共有さえ合っていけば、あえて個別に声をかけなくても、方向性が一緒だったら、その立場、立場で頑張ってくれるものだと、私は思ってます。ただその共有がない中で組織が進んでいくと、方向性が真逆になることもあって、足の引っ張り合いになって、前に進んでいかないんです。ただそこには、男性の集団と女性の集団の違いはあると思います。中間管理職の立場からいったら、例えば後輩達が愚痴を言ってきた時に、女性の多くは、あえて答えは求めてなかったりしますよね?
向井地 そうなんです!
原 話を聞いてほしいだけの場合もあって…。だから奥さんとけんかになるんです(笑い)
向井地 その他に、付き合い方で気をつけていることはありますか?
原 菅義偉政権が「前例主義、権威主義、既得権益の打破」を掲げていますが、これはスポーツの世界でも“あるある”で、チームをまとめていく上でも、この3つを解放することで、組織がより豊かに活動できるようになると思っています。そもそも人間というのは失敗する生き物だけど、一生懸命やったことに対しての失敗に、権威主義を持ってしかったら、それは挑戦しなくなりますよね。
向井地 確かに…。
原 僕は失敗の定義は「何もしないこと」だと思っていて、一生懸命やって失敗してしまったことは、改善を促して、さらにチャレンジしていければ、今のポジションより上にいけると思います。あとは、例えば新しい企画を持っていった時に、よく「それは過去にやったこと?」となる。ないなら、リスクがあるからやめておこうと。組織って、組織として固まってくると、だんだんとルーティンになってきてしまうんです。
向井地 分かります…。
原 もちろんその新しい企画に、運営側も、メンバー側も、何でそれをやりたいのか? という大義は必要です。その大義が、AKBという組織が向かっている理念と全く違うところでやりたいことなのであれば、それは組織を出てからやってください…という話ですけど、でもある程度の方向性が正しければ容認する文化を作っていかないと、組織としては広がりが絶対起こらないんです。ただリスクは付き物なので、プラスとマイナスの面をちゃんと整理して伝えて、マイナスの部分はあるかもしれないけど、「絶対負けない●●がある」という覚悟が必要になります。そんなくじけない気持ちがあるから、チャレンジさせてほしいと言える自信が自分にあるかどうかなんです。
向井地 みんながそれを言えるAKBだったらいいですよね!
原 だから本当は「300人それぞれがリーダーという心構えでやらないといけない」んです。1人1人がリーダーという気質をもってやれれば、それはプラスの方向の熱量になります。
向井地 覚悟を持つことも簡単ではないですよね
原 三国志から「三顧の礼」という言葉があります。最近の若い子は、1回お願いしてダメだった時に、「ダメだった…」ってそのまま帰ってくる子が多いんです。
向井地 そうかもしれません!
原 どう熱量と理屈をもって提案していくのかが仕事だったりするわけですが、1回、2回ダメだったからおしまいではなくて、どうすればできるんだという論法を持つこと。そのベースとなるのが「覚悟」になります。自分がこうしたいという覚悟がない人に対して、「前例主義を打ち破ってまでやろうか」という気持ちにはならないですから。
向井地 勉強になります!
◆原晋(はら・すすむ)1967年(昭42)3月8日、広島・三原市生まれ。中学で陸上を始め、広島・世羅高3年で全国高校駅伝準優勝。中京大ではインカレ5000メートルで3位入賞。89年に中国電力陸上部創設とともに入社。故障に悩まされ、95年に引退し、同社で営業職でサラリーマンに。営業マンとして新商品を全社で最も売り上げ、「伝説の営業マン」と呼ばれる。04年4月に青学大陸上部監督に就任。09年大会で33年ぶりに箱根駅伝出場を果たし、15年に箱根駅伝初優勝。翌16年の箱根駅伝で連覇と39年ぶりの完全優勝を達成し、17年には史上初の箱根駅伝3連覇&大学駅伝3冠を達成。18年まで4連覇。19年は優勝ならずも、今年の箱根で大会新記録で王座奪還を果たす。19年4月からは、地球社会共生学部の教授として教壇に立ち「リーダー論」の講義を行っている。