女優杏(33)が、結婚、出産を経て、4年ぶりにドラマに戻ってくる。主演する日本テレビ系連ドラ「偽装不倫」(7月10日スタート、水曜午後10時)では、既婚と偽って“不倫”の恋に落ちる独身女性を演じる。演技では「女友達が1人増える感覚」で役に寄り添う一方、撮影の時短も工夫し、育児にも正面から取り組む。「女優・杏」と「母・杏」を、別人格のように両立させている。

★変わらない美シルエット

白のブラウスにピンクのスカート。身長174センチのすらりとしたシルエットは、やはり杏だった。「花咲舞が黙ってない」(15年)以来の連ドラ現場の感想を聞くと、にこやかに切り出した。

「すごく楽しいです。スタッフ、キャストみんなでわいわいやってます」

「花咲-」後、双子女児と長男を出産。私生活の劇的な変化を経ての復帰だ。

「機材が増えてたり、スタジオが改装してたり。時間の流れを感じました」

「偽装不倫」は、杏が演じる30代女性の濱鐘子が宮沢氷魚演じる伴野丈に「既婚」とウソをつき、そこから“不倫”の恋が始まる。

「コメディーの勢いとロマンスのドキドキする部分がバランス良く、緩急ついたドラマだと思います」

杏が大ファンという原作の漫画家東村アキコさんからは、鐘子のイメージにぴったりとお墨付きを得た。

「すごく光栄。東村先生の漫画もほとんど読んでいる。原作者、原作ファンの方に良かったと思ってもらえるものにしたいです」

「花咲-」とほぼ同じ撮影スタッフも、復帰の後押しになっている。

「『花咲-』の時も健康的で、日付を越えたことがないくらい。今回も早朝から深夜までではなく、効率良くみんなで工夫して撮っている。意外と生活スタイルは変わらず、子供との時間も取れてます」

杏自身も、セリフを覚える方法などを少し変えた。

「家での作業が結構難しいので、移動時間とか使うようになりました。夜中にやったり。(以前は)移動中は休んでました」

時短や育休の分は、撮影期間を1カ月長く取って対応。「花咲-」チームへの感謝は尽きない。

「家庭を持った以上、制約は生まれている。守るものがあって育てなきゃいけない、というのは縛りと言えば縛り。まわりの方に協力していただき心苦しかったり、感謝したり。それでも『やろう』と言ってくれる。スタッフと出演者で分かり合えた気がしました」

★来客がまさか!?共演者に

ドラマのテーマである「不倫」。仲間由紀恵(39)演じる鐘子の姉、吉沢葉子も、理想的な夫の賢治(谷原章介)がいながら、14歳下の八神風太(瀬戸利樹)と不倫に落ちる。そんな愛に、妻であり母である杏本人は懐疑的だ。

「原作の漫画でも、この夫婦の違和感、というのはずっとぬぐえないでいます。何でそうなってしまったんだろう、と思い続けている。それが最終的にどう描かれていくのか、鐘子としても、私としても、知りたいと思っています」

仲間由紀恵も昨年6月に双子男児を出産。初出産が双子のつながりもある。

「仲間さんは以前から知り合い。一緒の日はすごく安心感がある。セリフ合わせを待ち時間に一緒にやっていただいたりします」

パパママ談議も交わす。

「谷原さんも子だくさんでいらっしゃるので、3人で(育児)話をしてます」

子供たちも、テレビ映像や声で杏を認識できるようになってきた。

「寝ている時間なので難しいと思いますが、予告が昼間流れたら見るかな」

夫の東出昌大(31)も育児に協力的。家庭では仕事の話は多くはしないというが、「偽装不倫」に出演する宮沢氷魚(25)と東出は昨年に舞台で共演。東出が自宅に招くなど縁がある。

「何度かうちに遊びに来てくれて。毎回突然(の来客)なので…それは氷魚君のせいじゃないんですけど(笑い)。アレンジしてなんとか、パスタにしたものを出したら、すごく喜んでくれたみたいです」

宮沢との共演は互いに驚いたという。

「まさか…と。やりづらいかもしれないけど、遠慮なくやってください、と話してます。心配になるくらい真面目にやっている。抜けるような白い肌や、茶色い髪の毛、普段あまり見ないビジュアル、町中でハッと振り返ってしまう雰囲気があると思います」

★家で一息…幸せの瞬間

杏にとって、演じる役は「女友達が1人増える」感覚だという。「ごちそうさん」のめ以子役なども自分の中に共存し続け、今作の鐘子役も「応援して寄り添う」距離感。自分と違う独身女性、共感できない「不倫」でも、杏自身を投影しすぎずに、役を際だたせている。

「自分というより鐘子さんの世界。自分(の存在)はないです」

もちろんこだわりもある。モデルでキャリアを始めた杏らしい視点だ。

「冷え性設定は大事にしてます。シャツの中にインナー着ているのが映っていて、オシャレになっています。オフィスで寒いと思っている方はぜひ参考に」

10年を超えた女優歴。原点は自然な流れだった。

「(ドラマの)お話を頂いて、という感じで、女優にシフトしようと思ってオーディションを受け続けたりしたわけではないです」

読書、歴史好きで、書評ラジオ番組を持った時期もある。自宅には本でいっぱいの部屋もあるらしい。

「さすがに今は歴史や活字の本は、そんなに読んでないです。バシっとセリフ覚えにシフトしてます」

と言いつつも、一番のリフレッシュ方法は、読書。

「逆に漫画を読んでます。携帯でも読みますし、買って読んだりもします」

知的好奇心の結果が、モデルであり、女優であり、読書家、なのだろう。

「基本的にモノを作ることに携わるのが好きなんだと思います。女優もモデルも、本を作ることも(創作意欲は)変わらない」

連ドラ復帰で、女優業のペースはどうなるのか。

「このドラマが終わってからじゃないと考えられないですね。今は、1日1日、集中です」

現在進行形のドラマに意識を集中している。ストーリーや演じる役についてよどみなく答える一方、家庭や共演者、モノ作り論になると少し間を取り、じっくり言葉を選ぶ。その姿はどこか、口数の少ない職人のようなたたずまい。美しい容姿の奥に武骨な、一本通った筋がある。女優としても、妻、母としてもいちず。そんな杏が今、幸せを実感する瞬間とは。

「家で一息ついているときとかですね。全部終わって寝る前とか(笑い)」

▼「偽装不倫」で共演の宮沢氷魚(ひお)

杏さんは細かいところまで目がいく方で、細かいお芝居がとても上手。物の置き場所とかもチェックされていて、コップの場所を「こうじゃない?」と自分からスタッフに言って、確かにこんなところに置かないな、と気づかされたり。全体を見る力がすごいです。大好きで尊敬していますし、役も素晴らしく演じてくださって、気持ちが入りやすいです。たくさん助けてもらうことになると思いますが、よろしくお願いします。

◆杏(あん)

1986年(昭61)4月14日、東京生まれ。01年「non・no」専属でモデルデビュー。パリコレなど海外でも活動。07年、テレビ朝日系ドラマ「天国と地獄」で女優デビュー。13年後期のNHK連続テレビ小説「ごちそうさん」ヒロイン。現在はTBS系「世界遺産」ナレーションなど。東出昌大と15年元日に結婚。16年5月に双子女児、17年11月に長男を出産。父は俳優渡辺謙、兄は渡辺大。血液型A。

◆偽装不倫

「東京タラレバ娘」などの作者、東村アキコさんが連載中の同名漫画。原作は韓国人カメラマンのジョバンヒと鐘子が恋に落ち、伴野丈はドラマのオリジナルキャラクター。葉子の不倫相手八神風太を演じる瀬戸利樹、MEGUMI、真島秀和らも出演。

(2019年7月7日本紙掲載)