韓国の実力派女優が日本の連続ドラマに初挑戦している。シム・ウンギョン(26)。10日に最終回を迎えるテレビ朝日系ドラマ「七人の秘書」(木曜午後9時)で、愛されキャラの知性派秘書を好演している。17年から日本でも活動。穏やかな語り口、柔和な笑顔が印象的なシムに話を聞いた。

★現場で生まれる面白さ

本格的に日本語を学び始めて4年目。日常会話は問題なく、丁寧な言葉遣いは聞き入ってしまうほどだ。

「恥ずかしいんですが、実際に学校で勉強した時間は6カ月しかないんです。最初の頃は学校に行って先生に習ってたんですけど、その後仕事で通うのが難しくなりまして。この作品に入る前もリモートで先生と勉強していました」

ドラマでは韓国人の母、日本人の父を持つ大学病院秘書、パク・サランを演じる。秘書だけに敬語のせりふも多く、今作で最初に教わったフレーズは「さようでございますか」だった。

「今まで日常には使ったことのない言葉。でも1回だけ、デパートに買い物に行った時、店員さんに『さようでございますか』って言われて。あ、こういう感じなんだと。今は事務所の方々に冗談で『さようでございますか』って言ってみたり(笑い)。なじんできました」

今年3月、映画「新聞記者」で韓国人として初めて日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞し、認知度を上げた。日本で映画出演は重ねているが、連ドラは今作が初めて。出演は「悩まなかった」と話す。

「シリアスなキャラクターが多かったので、ずいぶん前からポップな感じの役がやりたいと思っていたんです。ちょうどそのタイミングでお話をいただいて。日本での初連ドラとしても、自分のプレッシャーがかからず、皆さんと楽しくやれる作品だと思いました」

父親(リリー・フランキー)との感動の再会を演じた第6話から一転、第7話では仲間を裏切る展開に。さまざまな顔を見せ、終盤で存在感を発揮している。

「複雑な感情がてんこ盛りなので、お芝居的にも考えたり悩んだりして撮りました。自分がどういう風に演じたらいいのか頭が痛くなるくらい考えるんですけど、現場に入るとなぜか自然に感情があふれてくるんです。この現場は特にそうですね」

共演の木村文乃、広瀬アリス、菜々緒、大島優子らとは世代も近く、「本当に仲良くできていると、自分では思っています」と照れながら話す。

「アドリブをやってみたり、現場でこういうのはどうですか? って提案してみたり。そこで生まれる面白さが新鮮で、それが『七人の秘書』の魅力だと思います」

★受け答えには思慮深さ

勧善懲悪のストーリーが人気で、第5話で最高視聴率15・2%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)を記録した。医師の使い込みを暴き「これは経費で落ちません!」と領収書の束を投げつけるシーンでは「スッキリという気持ちになりました」と笑顔。一方で、本人の受け答えには思慮深さがうかがえる。

「私も正義感の強い人になりたいと思ってはいます。これはちょっと、って思ったら言っちゃいますね。でもその前にいろいろ考えて、様子を見ることが多いかなと思います。自分が間違って判断するかも知れないから、ちゃんと考えて言うタイプです」

9歳で子役デビューし、演技力は折り紙付き。主演映画「怪しい彼女」では20歳に若返って青春を満喫する老婦人をいきいきと演じた。実力派として韓国で地盤を築いていたが、17年に日本の芸能事務所と契約し、新天地に臨んだ。

「日本の文化が好きで、特に日本映画に影響されたものが多かったです。是枝裕和さんの映画や岩井俊二監督、中島哲也さんの映画を見て、いつか私も日本の作品に出たいと思って。松たか子さんの(映画)『告白』が大好きでした。日本の作品には『色』がちゃんとあると思っていて、その中で自分が演じたらどうなるのかなと。韓国だけに限らず幅広く活動して、いろんな作品で学びたいものも確かにありました。いつか出たいと、ずっと夢を持っていたんです」

両国を行き来しながら活動するが、新型コロナの影響で日本滞在が長くなっている。寂しくなることはないのだろうか。

「もちろん家族に会いに行けたらいいなと思う時もあるんですけど…今はうちの兄の犬がめちゃくちゃかわいくて。兄がニューヨークにいるので、犬に会いにニューヨークに行きたいです、実は(笑い)。その子犬が本当にかわいくて」

こぼれる笑みに、年相応の愛らしさが垣間見える。

★トーン上がる趣味の話

ドラマの会見では、共演者とのやりとりからシムのアイドル好きが明かされた。元AKB48大島との初共演をうれしそうに語る。

「AKBは本当に有名でした! 大島さんの存在は私も知っていたので、今回共演できると聞いて、え~!? って(笑い)。会えるのかな? って不思議な気持ちでした」

音楽通で、K-POPもJ-POPも好むが、特に日本で70、80年代に流行した「シティ・ポップ」と呼ばれるジャンルがお気に入りだ。趣味の話では声のトーンが上がる。

「坂本龍一さん、大貫妙子さん、大好きです。アルバムも持っています。私、クラシックも大好きで、渋谷の裏にある(名曲喫茶)『ライオン』にも行きました。コロナになる前はプライベートでよく行って、お茶をしながら音楽を聞いていたんです。1人で行ったり、語学学校が終わってから行ったりしました」

今後も2国で活動を続ける意向だ。キャリアは長いが、「自分はまだまだ」とおごらない。

「今やる作品、これからやる作品にちゃんと向き合って。まじめに、お芝居に対する自分の真心や信念を忘れずにやっていきたいと思っています」

高校時代をアメリカで過ごし、英語も堪能。ハリウッド進出はどうだろう。

「遠い国の話にも感じていて。でもいつかイ・ビョンホンさんみたいにハリウッドでも、もしチャンスがあればぜひやりたいと思っています。いつも『こういう作品がやりたいです』『こういう役がやりたいです』って言うと、それがちょっとずつ広がっていくんです。かなったらいいなと思っています」

控えめのようで、意志は強い。有言実行で夢をかなえていく姿が見える。

▼「七人の秘書」主演の木村文乃

お互いアイドル好きということもあり、韓国と日本のアイドルについて語り合ってみたり、韓国の食や美容について大島優子さんや菜々緒さんと盛り上がったり、室井滋さんのことが大好きだったりと、シムさんは少年のようななつっこさと好奇心とはじける心でいつも皆を楽しませてくれます。しゃぶしゃぶやカニが好きと食の好みに共通点があったので、ドラマが終わって落ち着いたら一緒にごはんに行けることを楽しみにしています!

◆シム・ウンギョン

1994年5月31日、韓国生まれ。03年に子役としてデビュー。06年のドラマ「ファン・ジニ」で主人公の幼年期を演じ、名を知られる。17年から日本で活動を開始。韓国映画は「怪しい彼女」、「サニー 永遠の仲間たち」など、日本映画は「ブルーアワーにぶっ飛ばす」に出演。来年4月、富司純子とのダブル主演映画「椿の庭」が公開予定。160センチ、血液型B。

◆「七人の秘書」

組織のトップに仕える女性秘書軍団が陰で要人を操り、人助けに奮闘する痛快ストーリー。主演は木村文乃、共演は広瀬アリス、菜々緒、大島優子、室井滋、江口洋介ら。「ドクターX~外科医・大門未知子」シリーズの中園ミホ脚本。

(2020年12月6日本紙掲載)