星組トップ礼真琴が、隻眼の剣豪・柳生十兵衛役に臨む。山田風太郎の小説を初舞台化した星組公演「柳生忍法帖」では、先日亡くなった千葉真一さんの映像を見て、身のこなし、所作を心に刻み、挑む。ショー「モアー・ダンディズム!」では、男役の美学を追究。歌、ダンス、芝居ともにそろったトップが本領を発揮する。兵庫・宝塚大劇場は18日~11月1日、東京宝塚劇場は11月20日~12月26日。

柳生十兵衛に臨む星組トップ礼真琴
柳生十兵衛に臨む星組トップ礼真琴

純真な青年から、清濁併せのむ剣豪に-。

「ロミオのピュアで純粋だった頃は忘れてください(笑い)。ガラリとまったく! 大人の余裕、包み込む大きさを目指して。私にとっても挑戦です」

前作「ロミオとジュリエット」では、かつて新人公演でも演じた精細な青年像を好演。今回は時代小説が原作で、殺陣もある。敵討ちを誓う7人の女性を悲願成就へと導く役どころだ。

柳生十兵衛について、本や映像で研究。「女性たちのことをつねに気遣っていて、厳しくて強くて、優しい」と魅力を再発見。左目を封じての殺陣は難しい。

「以前、一場面だけ経験しましたが、一気に視界が狭くなって。最初から最後まで、ずっとこうなのか-と覚悟しております」と稽古に励む。役作りは、舞台「魔界転生」から、映像では故千葉真一さんが演じた主人公を参考にした。「役者さんとしては、それはもう千葉真一さん!」。演出の大野拓史氏からもそう、勧められたという。

「千葉さんの十兵衛を見て、小説を読むと、すべて千葉さんの言い回しに(笑い)。立ち居振る舞いだったり、片方の目の使い方だったり、勉強になった」

ショーは岡田敬二氏の演出で、かつて真矢みき(当時)、湖月わたるが主演した「ダンディズム」シリーズ。男役の美学を求める。

「これもまた、高い、高い壁なんですけれども。初演の真矢みきさん、再演の湖月さんの2作品からも…これ歌いたかった、これ出たかった、という念願の場面が詰まっています。プロローグやハードボイルドの場面はあこがれもあり、難しさも感じています」

岡田氏からは「礼真琴にしか出せないダンディズムを」と言われた。「見よう見まねではなく、自分が出せる自分らしいダンディズムを」と研究を重ねる。

ダンディズム-男役の美学を追究するタカラジェンヌにとって永遠のテーマ。

「踊るのが好きで、ついつい体を動かして、満足してしまう。でも、男性のどっしり立っているだけで成り立つ圧倒的な存在感を」

先日、話す機会があった湖月から「歴代(見てきた)星組トップの、この方ならこの場面でどうするかをイメージし、いいところを盗んでやってみるのもひとつの方法」と助言された。

「その上で、最後は自分のやりたいように自分の魅力を出せばいい、とも。星組を築いてくださった先輩たちの何かを盗めたら…」

トップ就任から10月で2年。「組の全員に目を向ける」難しさを痛感する。宝塚音楽学校時代から首席で、意識せずともリーダーシップは身についている。それでもなお感じるトップの重圧。「下級生だったころ、トップさんからいただいた何気ない一言って絶対に忘れない。ものすごく勇気がわいた」と思い起こす。

今作で先輩の2番手スター愛月ひかるが退団する。「心地よくて空気感がすごく好きなので、(退団は)苦しいです…」と吐露。一方で、月組新トップに月城かなとが就き、花組の柚香光と同期が3組でトップに立つ。月城とは音楽学校時代、同じ役職を担った。

「行事の音響を。2人で夜な夜な音楽の編集をして『寝ないで』と言いながら(笑い)。うれしい。心強い。彼女の性格上『思い詰めないでね』と言いたい」

感慨深さも増す。

「どんぐりの背比べと言われ続けた我々(95期)が。みなで刺激し合って、お互いの舞台から盗み合って、ここまできたのかな」

同期には、各組に主力スターが大勢いる。「誇らしい。(柚香、月城とは)この立場でしか分からないことを共有できる仲間がいるのは、ありがたい」と環境にも感謝し、歩を進める。【村上久美子】

トップ本拠地2作目に臨む礼真琴
トップ本拠地2作目に臨む礼真琴

<愛月の退団に涙>

今作で退団する愛月ひかるは2期先輩。宙組から専科を経て、19年11月に星組へ移ってきた。退団を告げられ、礼は涙したという。「こんな私をサポートしてくださって、気を使ってくださって、本当に支えていただいた。短い時間でしたが、濃い時間を過ごさせていただき、最後、ご一緒させていただけるのは幸せだと思います」。寂しさ、つらさを押し込め、全力で送り出す心構えだ。

◆宝塚剣豪秘録「柳生忍法帖」(脚本・演出=大野拓史) 山田風太郎の小説「柳生忍法帖」が原作。時代は寛永年間、会津藩主・加藤明成は、出奔した家老・堀主水を断罪。幕府公認の縁切寺、東慶寺にかくまわれた堀一族の女性たちも武力で制圧しようとする。これに、東慶寺を保護する天樹院(千姫)が「女の手で誅(ちゅう)を下す」と決断。敵討ちを期す女性たちの指南役に、柳生十兵衛を招く。

◆ロマンチック・レビュー「モアー・ダンディズム!」(作・演出=岡田敬二) 男役の美学を追求する「ダンディズム」シリーズ第3弾。95年花組で真矢みき(当時)、06年星組で湖月わたるが主演した。宝塚レビューの伝統を継ぎ、品性、華麗さを軸に描く。

☆礼真琴(れい・まこと)12月2日、東京都生まれ。09年入団。星組配属。13年「ロミオとジュリエット」新人公演で初主演。歌、ダンス、芝居と高レベルで3拍子そろい、14年全国ツアー「風と共に去りぬ」でヒロインも。19年秋に星組トップ。相手娘役に舞空瞳を迎える。今年2月に「ロミオ-」主演。身長170センチ。愛称「まこっつあん」「こと」「こっちゃん」。