19年度前期NHK連続テレビ小説「夏空」(主演広瀬すず)の制作発表会で、制作統括の磯智明チーフプロデューサーがタイトル選考の経緯について語った言葉です。朝ドラはタイトルに「ん」がつく作品がヒットするという法則は以前からあり、やはり頭をよぎったようです。結果的に「ん」がつかないタイトルになりましたが、歴代朝ドラの配布資料を見ると、「ん」がつくタイトルはよくヒットしていることが分かります。

 「夏空」は、発表済みの「半分、青い。」「まんぷく」に続く作品で、朝ドラ100作目。ちょうどいいので数えてみると、タイトルのどこかに「ん」が入っているものはこれまで51作あり、最後が「ん」で終わる作品に絞っても27作あります。

 覚えやすい、リズムがいい、元気そうなど、朝ドラらしい「ん」の効果はいろいろ伝えられていますが、最初に出てくるのは、6作目の「おはなはん」(66年、ヒロイン樫山文枝)。30%台だった朝ドラ平均視聴率を一気に45・8%にまで上げる大ヒットとなり、朝ドラを国民的コンテンツに押し上げた作品として知られます。

 日刊スポーツの過去記事を見ると、70年代後半の7作品も興味深いです。76年前期「雲のじゅうたん」(40.1%)、後期「火の国に」(35.0%)、77年前期「いちばん星」(37.2%)、後期「風見鶏」(38.3%)、78年前期「おていちゃん」(43.0%)、後期「わたしは海」(35.9%)、79年前期「マー姉ちゃん」(42.8%)という具合で、タイトルが「ん」で終わるものは40%超え、そうでないものは30%台とくっきり分かれています。

 決定的だったのは、83年の「おしん」でしょうか。平均視聴率52・6%、最高視聴率62・9%という朝ドラ史上最高のヒット作となりました。翌84年前期の「ロマンス」(84年)は39・0%に急降下。この「ロマンス」から93年前期の「ええにょぼ」まで約10年間にわたり、「ん」で終わらないタイトルが18作中17作続いています。80年代後半からは緩やかに30%台を下降していく流れで、94年の「ぴあの」から20%時代へ。視聴率の底は09年で、前期「つばさ」が13・8%、後期「ウェルかめ」が13・5%。「ん」がつかない作品が朝ドラ最低記録となっています。

 放送時間を午前8時スタートとする大改革が行われた「ゲゲゲの女房」(10年)から視聴率も徐々に回復基調に。「あまちゃん」(13年)で初回視聴率20%台を回復。平均視聴率も「あまちゃん」(20・6%)、「ごちそうさん」(22・4%)、「花子とアン」(22・6%)、「マッサン」(21・1%)と、4連続で20%台を記録し、「ん」で終わるタイトルの強さを裏付けています。ちなみに、続く「まれ」は19・4%でした。

 とはいえ、最近では「ん」で終わらない「あさが来た」が23・5%と今世紀最高を記録していますし、9月に終了した「ひよっこ」も平均20・4%と大台越えを達成しています。放送中の「わろてんか」を含め、来春以降も「半分、青い。」「まんぷく」「夏空」と、「ん」で終わらない流れが続きます。

 磯氏は「舞台となる北海道の十勝は、『十勝晴れ』という言葉があるくらい晴天が多く、空が美しいところ。タイトルに空を入れたかったのと、ヒロインの名前が『なつ』であるのを合わせて、すがすがしい『夏空』としました」。ジンクスをはね返す作品作りが期待されます。といっても、まだ再来年の話ではありますが。

【梅田恵子】(B面★梅ちゃんねる/ニッカンスポーツ・コム芸能記者コラム)