16年のNHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」の脚本などで知られる、脚本家の西田征史氏(42)の監督2作目の映画「泥棒役者」が公開された。閉塞(へいそく)感が高まる世の中に元気を与えたく送り出した喜劇の中で、主演の関ジャニ∞丸山隆平(34)が持つ、明るく元気なパブリックイメージとは違う一面を描いた。日本を代表する脚本家の1人・西田監督に今作にかけた思い、狙い、脚本を書く際にイメージしたという丸山について聞いた。

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 10年の日本テレビ系「怪物くん」、11年の同系「妖怪人間ベム」、人気アニメ「TIGER&BUNNY」など、人気のテレビドラマやアニメの脚本を手がけ、それらが映画化されるなど今、最も期待される脚本家の1人、西田氏。その心の中には、いつも映画がある。14年に「小野寺の弟・小野寺の姉」で、夢の映画監督デビューを果たして3年…待望の映画2作目に選んだテーマは、自身が06年に作・演出した同名舞台の映画化だった。

 -「映画を撮りたいので、金をためて食いつないで、また作る」と言った2作目。見せたかったところ

 西田氏 「泥棒役者」は舞台が元だったんですけど、あえて映画としてやったのは、喜劇の構造…笑わせて入りながら、テーマに導いていく部分を見せたかったからですね。

 「泥棒役者」の主人公大貫はじめ(丸山)は町工場の職員で、かつて鍵開けの名人で泥棒をしていた過去を、恋人の藤岡美沙(高畑充希)に黙っていた。ある日、出所したばかりで仕事がない泥棒時代の先輩畠山則男(宮川大輔)に、美沙に過去をばらすと脅されて泣く泣く絵本作家・前園俊太郎(市村正親)の豪邸に忍び込むが、セールスマン轟良介(ユースケ・サンタマリア)が訪問。はじめは前園になりきってやり過ごす。その後、前園に見つかると担当編集者のフリをし、本物の編集者奥江里子(石橋杏奈)が訪問すれば、前園になりきってごまかす。その中、はじめは大好きだった絵本「タマとミキ」の作者が前園だと知る。

 -初監督作品となった14年の「小野寺の弟・小野寺の姉」は姉弟2人の物語。3年を経て、この作品を作った理由、テーマは

 西田氏 この作品の導入と枠組みは気に入っていたので、いずれ別の形で(舞台として)再演するなりできないかなと胸の中にあった中で、映像化して着地のしどころ、テーマを変えれば今、自分が言いたいことを織り込めるかなと。

 -それは閉塞(へいそく)した世の中に対する、どうなの? という投げかけ

 西田氏 そうですね。息苦しい…この5年で、より閉塞(へいそく)感を感じるようになった中、生き続けないといけない自分たちに対してのメッセージとして「君も頑張れよ、人生の続編」というセリフを書いたつもり。あの辺が1番見せたかったです。

 -登場人物は何かを抱える人ばかりだが、次第に真実を明かし始める。今の日本も、言いたいことが言えない人だらけの世の中

 西田氏 そうだなぁと自分自身も感じる。仕事の上司だ後輩だ…では言えないこともあると思う。(劇中のキャラは)多分、利害関係のない人たちだから(言いたいことを)オープンにも出来るんじゃないですか? 偶然、出会った人が(本音で語る機会を)もたらしたというのも1つ、あるんじゃないですかね。

 -監督デビュー作では映画的な画作りを目指した。でも今回は、すごく舞台的

 西田氏 そこは挑戦でしたね。最近、あまりこういう作品もないですし。今、やりたかったことがこれだったんですよ。自分の中の人生が切り開けたきっかけになった作品の1つですし、ずっと胸の中に、いつかやれればと思っていて、それを引っ張り出してきた。

 -ちょっとセリフが多いかなと…狙いは?

 西田氏 舞台ベースの映画だし、会話劇というところで割り切っている部分はあります。(登場人物に)しゃべらせたかった。伝えたいことを込めすぎたのかも知れないですけど…。

 -主人公は、主演の関ジャニ∞丸山隆平をイメージしながら脚本を書いたというが、舞台版の主演は片桐仁…全然違う(笑い)

 西田氏 舞台版は全然違って、泥棒は本当にコミカルな人なんです。丸山さんとは舞台をきっかけに知り合って、仲良くさせていただいている中で、世間に見えている面とのイメージの差も、自分の中で見えていたし。

 -何が違う?

 西田氏 明るくはつらつ、ずっと元気なイメージですよね? ただ、飲んでいたら、やっぱり大人だから、いろいろ考えるのは当たり前ですけど日々、細かいことを悩んでいたり…割とそうですよ。そういう面を見れば見るほど、こういうサイドを見せられたらな、という思いがあったので。

 -関ジャニ∞で見せる顔とは違う、かなり内省的な表情が見える。真実の顔の1つが見られる?

 西田氏 どちらかというと、元気を出す人…でも、そっちじゃないのを知っていた分、どうかなぁという。そういう(真実の顔)という、うたい方もあるかと。

 -丸山自身は、どう捉えている?

 西田氏 「そういう風に自分を見ていたんだ、というのは意外だ」と言っていましたね。

 次回は、西田氏が脚本を担当した16年のNHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」に主演し、今作にも出演した高畑充希(25)について、そして映画の元となった06年の舞台版で主人公の泥棒を演じた、ラーメンズ片桐仁(44)が演じたユーチューバーに込めた、ネット社会が進む現代について思うところを語る。【村上幸将】