平成時代に最もカラオケで歌われた曲は、一青窈(42)が04年2月に発売した「ハナミズキ」だった。01年の米同時多発テロ事件を受け、ニューヨークに住む友人の無事を願って書いた歌詞。それが“独り歩き”し、結婚式でも歌われる恋愛ソングとしても広まった。当時、歌詞にどんな思いを込め、世代を超えて多くの人に愛されていることをどう受け止めているのか。第3子の出産準備に入っている一青が文書で答えてくれた。

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米中枢同時テロ直後、一青はニューヨーク在住の男友だちから1通のメールを受け取った。「住んでいる場所を立ち退けと避難勧告を受けている」。衝撃映像をテレビで見ており、右往左往している友人の姿がまぶたに浮かんだ。「とにかく、彼と好きな人が無事でありますようにと願いました」。その思いを詞にした曲が「ハナミズキ」だ。

04年の発売当初は「9・11テロの光景を頭に浮かべ、ミサイルが飛び交う世の中よりも、花を贈り合う外交をという、祈りに近い気持ちで歌っていた」という。

ところが、平和を願って書いたはずの曲が、やがて結婚式などで多く歌われる「恋愛の歌」として定着する。作詞者として複雑な思いはないのだろうか。

これには「それぞれの受け止め方で本当にいいと思っております」とし、「私の世界観だけでとどまると、とてもつまらないと思うので」と付け加えた。さらに「人を思いやる気持ちは時間も年齢も関係がなく、たくさんの人が他者の幸せを願っているあかし」とも続けた。

「ご友人やご家族をお祝いする場で、心から『おめでとう』と伝える場に、私の歌を選んでいただけることはとてもうれしいです。光栄な気持ちにとらえています」。

歌詞の中で、特に印象的なのは「君と好きな人が百年続きますように」のフレーズだ。一青は「祈りにも似た言葉が、八百万神(やおよろずのかみ)に感謝する日本人の精神に何か響くものがあったのでしょうか。もしくは歌いやすさとか、メロディーの分かりやすさ、男女問わずに歌えるところでしょうか」と、世代を超え愛される理由を推し量った。そして多くの「ハナミズキ」ファンに「解釈を聞かせて欲しい」と意見を求めた。

15年に結婚し現在は2児のママとして子育てに奮闘中だ。子どもを授かったことで、曲の世界観に変化があったのだろうか。「世界のとらえ方に変化はない」としながらも「子どもが生まれて私の中で新たな愛が生まれた気がする」と語る。

新たな愛…。それまでは、他者の痛みを自身のことととらえるために「想像しよう! と努めていた部分が多かった」という。だが、母になってからは「考えるよりも先に、痛みや苦しみ、喜びに対して以前よりも直感的に、原始的に共鳴するようになった」と感じている。母になり、無償の愛を注ぐ対象ができたことで、より他者に優しい視点を自然と身に付け、視界が根っこから広がった。

01年に一青にメールを送った友人はその後、当時の交際相手と結婚した。名曲「ハナミズキ」が生まれるきっかけになった「彼と好きな人」が幸せに暮らしていることに、一青は「私もとてもうれしい」。静かに喜んでいる。【松本久】

◆一青窈(ひとと・よう)1976年9月20日、台湾人の父と日本人の母との間に生まれる。東京都出身。慶大卒。小学生の時から書きためていた詞がレコード会社の目に留まり、02年に「もらい泣き」でデビュー。04年発売の「ハナミズキ」は5枚目のシングル曲。女優としても04年の映画「珈琲時光」、08年の音楽劇「箱の中の女」で主演。13年に初詩集「みんな楽しそう」発売。家族は夫と1男1女。155センチ。

◆平成カラオケランキング 市場シェアNO・1の通信カラオケ「DAM」が発表。1994年(平6)4月から2018年(平30)10月までのデータを集計した。