松田聖子の映画デビュー作「野菊の墓」や、「Wの悲劇」などで知られる、澤井信一郎監督が3日午後7時5分、多臓器不全のため都内の病院で亡くなった。83歳だった。6日、東映が発表した。

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演じる俳優にも、見ている観客にも安心感を与える堅実な正攻法の演出が持ち味だった。

監督デビューは43歳と遅かった。撮影所では誰もが認める名助監督だったが、「助監督までは(東映の)社員でいられるが、監督になるとフリーにならなきゃいけない。生活が不安定になる」と、持ち込まれる監督依頼を断り続けた。人気アイドル松田聖子を主演に迎えた「野菊の墓」で、ようやく重い腰を上げた。

出演者とはとことん話し合い、納得の上でカメラを回す。主演作で数多く助監督を務めた高倉健さんの信頼も厚かった。撮影終了後、酒を飲まない高倉さんに六本木の喫茶店で連日明け方までコーヒーを付き合った。高倉さんにいわれのないゲイ疑惑が浮上した時、スタッフの間では「原因は澤井ちゃんとのツーショットだな」とささやかれた。

澤井作品のクオリティーに外れがなかったのは出演者誰もが納得ずくで演じていたからだと思う。【相原斎】