映画「新聞記者」や「ヤクザと家族 The Family」などを製作した、スターサンズ代表の河村光庸さんが11日、心不全のため急逝したことが分かった。72歳だった。13日、同社が発表した。近年は体調を崩し入院もしていたが、映画製作への意欲は衰えず、「新聞記者」「ヤクザ-」の藤井道人監督が監督、脚本を務め、横浜流星(25)が主演した最新プロデュース作「ヴィレッジ」(23年公開予定)の撮影を、5月末に終えたばかりだった。遺族の意向により、葬儀は近親者のみで執り行い、後日、小さなお別れの会を執り行う予定とした。

河村さんは慶大経済学部中退後、94年に青山出版社、98年にアーティストハウスを設立。数々のヒット書籍を手掛ける一方、映画出資にも参画し、08年にスターサンズを設立。エグゼクティブプロデューサーを務めた11年「かぞくのくに」が、国内の映画賞を総なめし藤本賞特別賞を受賞した。

18年には、東京新聞の望月衣塑子記者の同名著作を原案にした「新聞記者」を公開し、政権を痛切に批判。同作は第43回日本アカデミー賞で最優秀作品賞、松坂桃李の最優秀主演男優賞、韓国の女優シム・ウンギョンの最優秀主演女優賞などを受賞。第32回日刊スポーツ映画大賞でも作品賞を受賞し、河村さんも藤本賞、19年度度新藤兼人賞プロデューサー賞を受賞した。

19年には、テレビ東京系連続ドラマを映画化した、映画「宮本から君へ」(真利子哲也監督)をエグゼクティブプロデューサーとして製作。ただ、出演者のピエール瀧がコカインを使用したとして、麻薬取締法違反容疑で逮捕されたことを受け、文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」(芸文振)が助成金交付内定後に不交付を決定すると、その行政処分の取り消しを求めた裁判を起こした。日本映画史上、映画で国を訴えた初の裁判となった。21年には、当時、首相だった菅義偉氏の素顔に迫った、日本初の現役首相を描いたドキュメンタリー映画「パンケーキを毒見する」を製作。話題作、問題作を近年、次々と送り出し、日本映画界でも屈指の“戦うプロデューサー”として知られていた。

河村さんは生前、「宮本から君へ」の行政訴訟を起こした中で「文化庁の存在意義、文化の多様性を否定し、文化芸術の創造性まで否定するような、独自性を無視することを秘めた訴状だとビックリした」と、改めて失望感をあらわにした。その上で「文化芸術における公益性とは何か、一歩譲って公益性とは何かについては一言も言わず、よく分からないことを言っている」と首を傾げた。その上で「来年は憲法論議が盛んになると思う。つまり、公益性が何かを考えなければ行けない年になる。その裁判で、どう決着が付くかが問題」と強調するなど、表現の自由や文化の独立性の重要性を繰り返し、訴え続けていた。

◆河村光庸(かわむら・みつのぶ)1949年(昭24)8月12日、福井生まれ。主な企画・製作作品は、菅田将暉主演の17年「あゝ、荒野」、18年「愛しのアイリーン」、長澤まさみ主演の20年「MOTHER マザー」、21年の「空白」など多数。