司葉子と上白石萌音が先日、東京・京橋の国立映画アーカイブで行われた特集上映「東宝の90年 モダンと革新の映画史」のトークショーに出席した。

ほんの20分ほどのトークだったが、司の存在感や上品さに見とれ、上白石の謙虚さを感じた時間だった。

互いのあいさつ冒頭、司は上白石のことを「本名なの? すごいわねえ。何度聞いても覚えられなくて」と笑った。上白石も「覚えてもらえるよう、もっと頑張ります」と応じ、何だかすごくほほえましいやりとりから始まった。

特集上映では、司の主演映画「その場所に女ありて」(62年)が上映されたため、同作についての思い出が語られた。ポスターもかっこいい。司は広告代理店のやり手会社員を演じている。ライバルを演じるのは宝田明さんという豪華キャストだ。

司が「すごい大人の写真(映画)だなと思いました。初めての大人の写真でした。いきなり大人の世界に入って行った。たばこを吸う、お酒を飲む…。いきなり大人の役になりました。たばこもずいぶん練習しました。映ったのを見たらすごい上手で、煙がぷかーっとしていて良い感じでした」と話すと、上白石も「今見ても新しいところがありますよね。普遍性があって、何をされても品にあふれていて、ほれぼれしました。私もかっこよくたばこが吸える女優になりたい。必要があれば練習します!」と受けた。上白石のイメージにはなかったが、そう意気込みを語りたくなるほど、映画がすてきだったということなのだろう。

司は新日本放送(現在の毎日放送)で秘書をしていた時にスカウトされ、映画の世界へ入っていった。司いわく「まったくの素人のまま、撮影所に入っていった」とのこと。その司が、それまでの若い役に区切りをつけて挑んだのが「その場所に-」だったという。思いの深い映画だけに、トークもおもしろかった。

別の作品の話題にも及んだ。司の代表作の1つに、成瀬巳喜男監督の「乱れ雲」がある。司は「成瀬監督の映画に出られたら最高だと当時は思ってました。ある女優さんが『自分を出してください』と嘆願したら、成瀬監督は『そうね、あと10年くらいたったらやろうね』と言ったそうです。その話を聞いて震えました!」と笑わせ、「幸運にも成瀬先生の作品には2作品出させてもらえました。(『乱れ雲』の撮影では)加山さんと2人で震えながら終わりました」とさらに笑わせた。

女優を長く続けるこつを聞かれた時の回答も興味深かった。司は「映画を成功させなきゃいけないというスタッフたちがいろんなことを教えてくれました。そのうちの1つが『外に出るときは一張羅を着なさい』でした。撮影所の中では何を着ててもいいけど、外に出れば一張羅を着なさいって言われました」と振り返った。表に立って映画を背負ってくれるのはあなたなんだから、という責任を教えてもらったのだと思った。上白石も「今日、服買いに行きます!」と、大いに納得してうなずいていた。60歳以上の年齢差のあるトークが気持ちよくまとまった。【小林千穂】