「スーパー歌舞伎」で人気を集めた歌舞伎俳優市川猿翁(いちかわ・えんおう)さん(本名喜熨斗政彦=きのし・まさひこ)が13日午前6時55分、不整脈のため亡くなった。83歳。葬儀、告別式は親族葬で執り行い、後日、お別れの会を開催する。長男は市川中車こと香川照之(57)、孫は市川團子(19)。

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復活への思い、舞台への意欲は衰えなかった。

13年3月、新しく開場する歌舞伎座で行われた古式顔寄せ手打式が行われた。歌舞伎俳優180人近くが参加するとあって、注目は入院中の猿翁さんが姿を見せるかどうかだった。2カ月前の1月に肺炎などの体調不良で舞台を途中休演していた。果たして、猿翁さんの姿が舞台上にあった。まだ入院中だったが、病院から駆け付けたという。

新しい歌舞伎座の舞台に立ちたいという強い意欲があった。終了後には、楽屋口に集まったファンの「澤瀉屋!」という声に、車の窓を半分開けて手を振って応えた。猿翁さんの真面目さを感じた出来事でもあった。

澤瀉屋一門の弟子たちによっては、揺るぎない絶大な存在だった。一門から離れたとしても、節目などには必ず猿翁さんにあいさつに行った。猿翁さんにとっては、自分の元で修業を積み、羽ばたき挑戦する姿は何よりの喜びだった。一門以外でも猿翁さんに影響を受けた人は多い。

◆市川猿翁(いちかわ・えんおう)1939年(昭14)12月9日、東京都生まれ。父は3代目市川段四郎、母は女優高杉早苗。1947年(昭22)に3代目市川團子を名乗り初舞台、63年に3代目市川猿之助を襲名。12年、2代目市川猿翁を襲名。88年に「猿之助十八番」を家の芸として制定、10年には新たに「猿之助四十八撰」を制定した。最後の舞台出演は13年12月南座「襲名披露口上」。仏文化芸術勲章オフィシエ、芸術選奨文部大臣賞、紫綬褒章、文化功労者など。私生活では65年に女優浜木綿子と結婚し、香川照之が生まれるが68年に離婚。00年に藤間紫さんと結婚、09年に死別。