コンペティション部門出品の「恒星の向こう側」(中川龍太郎監督)主演の福地桃子(28)と、福地演じる未知の母可那子を演じた映画監督の河瀨直美氏(56)が、最優秀女優賞を受賞した。日本人俳優の女優賞受賞は、14年「紙の月」(吉田大八監督)の宮沢りえ(52)以来11年ぶり5、6人目。女優賞のダブル受賞は、05年の第18回の、英国のヘレナ・ボナム・カーターと中国のジン・ヤーチンさん以来20年ぶり。
福地は、個人として初のビッグタイトル獲得となった。また河瀬氏も、97年に世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭(フランス)で「萌の朱雀」が新人監督賞「カメラドール」を受賞。同映画祭では07年「殯(もがり)の森」で審査員特別大賞を受賞など、映画監督としての受賞歴はあるが、俳優としては中川監督の20年の前作「静かな雨」含め4作に出演も、受賞は初となる。
福地は、マイクの前に立って、受賞スピーチを口にしようとした瞬間から、涙で声が震えた。「歴史ある素敵な賞をいただけて光栄に思います。大切な作品を通し、映画に携わった1人としてお話させていただくのが身の引き締まる思い。撮影していたのは1年前のこの時期。主人公を追いかけ、溶け合っていくような時間は、1人で乗り越えられるような時間じゃなかった」と撮影を振り返った。そして「中川監督、チームの方、母である河瀨直美さん…圧倒的で温かい存在感など、多くの人の支えがあって、ちりばめられたことで引き出された。自分の内側から本当に出た言葉が刻まれた作品」と口にすると、声が震えた。河瀨氏に背中をさすられると「この先、自分がどんな風に年を重ね、どんな俳優になっていくか分かりませんが、1つ1つの作品に真っすぐ向き合っていきたい」と口にした。
「恒星の向こう側」は、母可那子との余命を知り故郷に戻った娘・未知が、寄り添おうとしながらも拒絶する母と衝突を重ねる。夫登志蔵との間に子を宿しながらも、亡き親友への思いに揺れる彼の姿に不安を募らせる未知は、母の残したテープから“もうひとつの愛”を知り、初めて母を理解し、母から託された愛を胸に進んでいく。登志蔵を寛一郎(29)が演じる。
河瀨氏は「監督として映画祭に参加したことはあっても、俳優として立たせてくれたのは、中川監督がこういう場を設けてくれた」と中川監督に感謝した。撮影を振り返り「大変難しい役でしたけど、衣装合わせの時からあまり話さず、カットがかかっても冷たく接した。嫌われたかなと思った」と役どころを踏まえ、福地とは距離を置き続けたと明かした。
激しくぶつかり合うシーンをはじめ、福地とは実の母娘そのものとしか思えないほどの演技を披露。終盤の母が娘をおんぶしたシーンは大きな見どころだ。河瀨氏は「彼女の重さを最後に背負った時に感じ、温かい涙が出た。温かさを感じられた時、生きてて良かったと思える生きもの」と語った。また、8月にスイスで開幕する第78回ロカルノ映画祭のインターナショナル・コンペティション部門に選出された、自身の新作「たしかにあった幻」に中川龍太郎監督(35)が出演していることも明かした。「私自身、俳優として立たせていただいた…中川監督には私の新作の俳優として出てもらっている。立場を超えて繋がりあっていく」と語った。
◆福地桃子(ふくち・ももこ)1997年(平9)10月26日、東京都生まれ。父は哀川翔(64)で母は元モデル。5人きょうだいの次女で末っ子。14年に哀川が出演したテレビ東京系ドラマ「借王(シャッキング)~華麗なる借金返済作戦~」に娘役で出演し初演技。16年の同系「潜入捜査アイドル・刑事ダンス」で俳優デビュー。19年の映画「あまのがわ」で映画初出演初主演。同年のNHK連続テレビ小説「なつぞら」で朝ドラ、22年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に、それぞれ初出演。趣味は旅行、料理。身長153センチ。
◆河瀨直美(かわせ・なおみ)1969年(昭44)5月30日、奈良県奈良市生まれ。中学時代にバスケットボールを始め、同市立一条高時代に国体に出場。大阪写真専門学校(現ビジュアルアーツ専門学校)に入学。95年に映画「につつまれて」が山形国際ドキュメンタリー映画祭国際批評家連盟賞を受賞。20年「朝が来る」が米アカデミー賞国際長編映画賞の日本代表。18年秋に東京五輪公式映画監督に就任し、22年6月に「東京2020 SIDE:A/SIDE:B」公開。21年にバスケットボール女子Wリーグの会長に就任。今年の大阪・関西万博のプロデューサー兼シニアアドバイザー。



