フランスで開催中の世界3大映画祭の1つ、第79回カンヌ映画祭で最高賞パルムドールを競うコンペティション部門に出品された、深田晃司監督(45)の新作「ナギダイアリー」(9月25日公開)の、ワールドプレミアとなる公式上映が13日に行われた。エンドロール中から約7分間にわたる拍手喝采とスタンディングオベーションが巻き起こり、同監督は「9年前に始めた企画です。最高の舞台で上映できたことをうれしく思います」と感激した。
深田監督は、16年「淵に立つ」が、カンヌ映画祭ある視点部門で審査員賞を受賞。コロナ禍で授賞式が行われなかった20年には「本気のしるし〈劇場版〉」がオフィシャルセレクションに選出された。前回の25年は「恋愛裁判」がカンヌ・プレミア部門に選出され、今作で2年連続4度目の出品となるが、初のコンペティション部門への出品となった。主演の松たか子(48)共演の石橋静河(31)と松山ケンイチ(41)にとっても、出演作のカンヌ映画祭への出品は初めて。
深田監督は「映画祭の場所は、歴史もあり、すごく華やかで大きなものに感じますけど、マイノリティー…多様性を発掘し、光を当てるところ。映画、映像が持つ役割は、世界を知るための窓であること」と、国際映画祭の持つ意義を語った。その上で「欧州の映画祭で、日本のローカルな景色や人々や生活の様子を、欧州の人に見てもらえる機会をつくられたことは、企画に意義があった」と、作品をカンヌの舞台で上映した意義も強調した。
一方で「逆に日本は今、日本映画にお客さんがたくさんが入って、海外の映画には入りにくくなっている状況になっている」と、日本国内において、邦画に観客が集中する一方で、海外の映画の集客が落ちていることも指摘。「日本映画にお客さんが入っていること自体、日本の観客としては、とてもうれしいことなんですけど、多様性がちょっとずつ、狭まってきているのでは? という心配があります」と、日本国内において、映画の多様性が失われてきていると警鐘を慣らした。
今年はコンペティション部門に「ナギダイアリー」のほか、15日に公式上映が行われる濱口竜介監督(47)の「急に具合が悪くなる」(6月19日公開)、16日に公式上映が行われる是枝裕和監督(63)の「箱の中の羊」(5月29日公開)と、日本映画3作品が出品された。日本映画がコンペ部門に3作品、出品されるのは、今村昌平監督の「赤い橋の下のぬるい水」、青山真治監督の「月の砂漠」、是枝監督の「ディスタンス」が出品された01年の第54回以来25年ぶり。それ以前が、黒澤明監督の「生きものの記録」、渋谷実監督の「青銅の基督」、島耕二監督の「幻の馬」が出品された56年と、日本映画の歴史においても異例の快挙となった。
深田監督は、そのことに触れ「日本映画がこれだけ注目していただけているのは、昔からの蓄積があると思っていて」と指摘。「日本は50、60年代に映画の黄金時代があった国。その延長線上で、自分が映画を作らせてもらっている。日本映画が、ある種のブランドとして映画祭の中に定着している。注目してもらえるのは必然」と先達に感謝した。
一方で「社会的な話になっちゃうんですけど」と切り出し「国立の美術館が収益性を求められ補助金、支援が制限されつつある中で、文化支援の本質というのは売れたか、売れないかという経済的な評価だけではなくて、未来に残していくものということで、文化を支えるべき」と指摘した。2月に文科省が国立美術館、国立科学博物館、国立文化財機構の令和8年度(26年度)からの5年間の次期中期目標を策定し、展示事業費に占める入館料などの自己収入の割合が4割という初の数値目標を定めた。
報道の多くが、目標に満たず、社会的に求められる役割を十分に果たせていないと判断した場合は再編の対象とすることも報じており、そのことに対し、疑問を呈した発言とみられる。深田監督は「支援体制は十分なのか? 古い映画の恩恵を受けながら今の日本映画界はあるし、海外の評価がある中で、今の行政、仕組みが十分に生かしているか、支援できているかは考えなければいけない。このことは、あと1時間は話せる」と口にした。
「ナギダイアリー」は、第39回岸田國士戯曲賞を受賞した平田オリザ氏の代表作「東京ノート」に着想を得て、深田監督が自らオリジナル脚本を執筆。同作の精神を受け継ぎながらも、岡山県奈義町がモデルの「ナギ」を舞台に新たな物語を紡ぎ、企画の立ち上げから9年の歳月を経て完成させた意欲作。松が自然豊かな町「ナギ」でひとり創作に打ち込む彫刻家の寄子、石橋は寄子の弟と離婚した元妻で東京と台湾で建築家として活躍する中、ナギを訪れ、かつての義理の姉・寄子の彫刻のモデルを務める友梨を演じた。
◆「ナギダイアリー」近くの山から切り出される木でひとり彫刻を作る寄子(松たか子)。ある日、東京と台湾で建築家として活躍してきた友梨(石橋静河)は、数日間の休暇をとって、別れた夫の姉・寄子のもとを訪れる。都会にはない「ナギ」での穏やかな生活。妻を亡くした寄子の幼なじみの好浩(松山ケンイチ)そして息子の春樹とその親友の圭太--人々との出会いは、日常に小さな揺らぎをもたらしていく。やがて、彫刻のモデルを毎晩つとめるなかで寄子の知られざる喪失に触れ、友梨にも変化が起きていく。



