3月30日に胃がんのため69歳で亡くなった俳優蟹江敬三さんが、末期がんと知りながら、死の13日前まで仕事をしていたことが5日、分かった。昨年暮れにがんと告知され、今年に入って治療に入ったが、2月には「仕事をやりたい」と言い現場復帰。3月17日、最後の仕事となったテレビ東京系「ガイアの夜明け」のナレーション収録には、病院から駆け付けていた。

 関係者によると、蟹江さんは、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」の収録終了後の昨秋ごろから、体がだるくなり、食欲もない状態が続き、自宅近くの病院に通っていた。それでも、12月中旬から下旬まで、5日放送のテレビ朝日系ドラマ「おとり捜査官・北見志穂18」の収録に参加。終了後の同月末に東京女子医大で診察を受け、末期の胃がんと告知された。リンパに転移しており、手術はできない状態と診断された。

 その後、入院、退院、入院と時を重ねながら、1月は放射線治療を続けた。2002年(平14)からナレーションを務めた「ガイアの夜明け」も1月は休んだが、医師から「仕事をしても構いません。気も紛れるでしょうから」とゴーサインを得て2月に復帰した。

 関係者は「仕事を愛した人なので、少し体調も良くなって、『ガイア』をやりたがっていた」と話す。3月10日の収録は、いつも通り電車に乗って参加。同17日は病院から収録に入り、翌18日に退院して自宅に戻ったが、19日に体調が急変して入院。関係者は「体も動かせなくなり、食事も取れなくなった」という。

 しかし、最後まで意識ははっきりし、劇団青俳時代の68年に結婚した妻綾子さんとも話をしていたが、3月30日に容体が急変。綾子さん、女優の長女栗田桃子(40)、俳優の長男蟹江一平(37)の3人にみとられて息を引き取った。蟹江さんは生前、綾子さんに「家族で見送ってほしい」と伝えており、今月2日に家族と所属事務所関係者だけの密葬が行われていた。

 しかし、ドラマ収録中の一平だけは参列できなかった。3月下旬は都内ロケで臨終に立ち会えたが、今月1日から地方ロケに入っており、関係者は「無理すれば戻ることもできたが、俳優として父蟹江さんは喜ばないと、ドラマに集中したようです」と証言。仕事に人生を懸けていた父の熱情は、息子にもしっかりと継承されていた。一平はロケを終えた上で、週明けに取材対応を決めるという。

 一方、長女の栗田は所属の文学座を通じて「どの作品でも強烈な印象を残して輝き続ける父を本当に誇りに思います」とコメントを発表した。栗田は1月から文学座「クニコ」の地方公演に参加したが、3月下旬から4月初めまでが偶然にも休みだった。