野球の世界で最も厳か、かつ特殊な場所が「ブルペン」だ。投げ込む息づかい、スパイクがマウンドの土をかき込む乾いた音、ミットをたたく破裂音。私語厳禁の濃厚な空間で、投手たちはコツコツと自身のフォームを作り、磨き上げていく。素朴な疑問をつぶしながら、職人たちの工房を探求する。【プロ野球取材班】

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Q ピッチャーによって、グラブの使い方が違うことに気付いた。ブルペンではかなり注意を払って練習している。どんな狙いがあるの

A 昨季まで巨人投手コーチを務めた小谷正勝氏(74)が、12年の日刊スポーツ連載「小谷の指導論」で解答を示している。

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投球について深く考えれば考えるほど、グラブは大切な役目を果たしている。◆目標ヘの方向付け◆軸が移動する際のバランス調節(間を作るなど)◆推進力を受け止める壁◆利き手の誘導役、などがある。グラブの操作法はその割れ方、すなわち腹(捕球する面)の向きで3種に分類できる。扱いが非常に巧みだった3投手を挙げ、具体的に見ていこう。

※左腕は文中の左右を入れ替える。

<1>伊藤智仁タイプ…グラブの腹が自身の背中側を向く グラブを下から目標に出していく。親指は下を向く。腕を伸ばしきってから手首を反時計回り(左腕は時計回り)に回し、肘から左腰に引いてくる。この引き付けを利用し、ボールを保持しているヘッドを走らせる。日本人投手の最もオーソドックスな形。

<2>遠藤一彦タイプ…グラブの腹が目標に対し正面を向く 腕のねじりが少なく動作はシンプル。腕を伸ばしきってから、手首を180度クルリと返す。腰ではなく、自分の左胸に引き、グラブで支点を作る。上半身を前に折り、テコの原理を利用した強いインパクトを作り、ヘッドを走らせる。その動きから「拝み投げ」と表現している。

<3>斉藤明夫タイプ…グラブの腹が自身のへそに向く 手首の甲が目標の正面を向く。指は下。腕を伸ばしきるまでの動き、引き付ける際の動きともに大きい。グラブは肩のラインより高くなりがち。あごも上がり気味になる。相手を威嚇して、真上から投げ下ろそうとする意識から生まれた操作と考えられる。最も複雑で少数派だが、軸移動の推進力を一番強くブロック出来る。その反動を利し、ヘッドが走る瞬間の力も一番大きくなる。「アーム投げ」と評される投手が採用する場合が比較的多い。

正解はないので、試しながら本人に一番合った形を研究してほしい。【12年3月29日付紙面を再掲載】