夫は借金を残して失踪、幼子2人を抱えて働きづめの生活は限界を迎えようとしている。

北川景子が演じると、こんな美女を捨てて逃げる夫がいるのだろうかとにわかに疑念が湧くが、勤務先のスナックでのカラオケ歌唱のやけくそぶりの迫力がそんな先入観を吹き飛ばす。朝ドラ「ばけばけ」で演じている士族の妻は、落ちぶれて生きる術を失うが、対照的にこちらは命懸けの反撃に出る。

「ナイトフラワー」(28日公開)は、困窮の末にドラッグ売買に手を染める母親のクライムストーリーだ。

小学生の娘が唯一のお稽古事であるバイオリンで示す才能に目を細め、保育園児の弟のイヤイヤ期全開にも必死にこらえて抱き締める。「ミッドナイトスワン」の内田英治監督は序盤で母の愛情をしっかりと印象づける。

素人のシングルマザーがドラッグ売買の危険を回避できるわけはなく、そこには運命的に出会った女性格闘家がボディーガードを買ってでる。こちらも風俗アルバイトでジム費用を捻出する困窮者で、支え合う姿はシスターフッドの趣だ。

格闘家役の森田望智は7キロ増量のトレーニングを重ねたそうで、動きの端々まで成りきり、北川との熱いコンビに引き込まれる。子ども2人を交えた疑似家族のような描写は、ヒリヒリする作品の息抜き効果となり、泣かせ所でもある。

いくら愛情にあふれていてもドラッグ売買が許されるはずはなく、内田監督はそこに法というよりは被害者の存在という現実を突きつける。

この疑似家族とは対照的に裕福だが冷えきった一家のなりゆきが、さりげなくメインストーリーに織り込まれる。悪友の誘いでドラッグに手をつけた一家の一人娘は深みにはまり、命を落としてしまう。彼女にクスリを売った売人の母、そしてその疑似家族にこの死が暗い影を落として…。

ひとり親家庭の貧困率は5割に及び、ドラッグのまん延は年々深刻さを増している。そんなまぎれもない現実が改めて突きつけられる。

この題材でハッピーエンドに至るとは思っていなかったが、結末には少しだけ心温まる工夫がこらされている。

Snowman佐久間大介、SUPER BEAVER渋谷龍太の個性がそれぞれいい感じに生かされている。渋川清彦、池内博之、田中麗奈、光石研と周囲は盤石の布陣で、シスターフッドの2人を際立たせている。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)