話題の吉本興業を創立した吉本せいさんを主人公にした、藤山直美主演の舞台「笑う門に福来たる」が27日に千秋楽を迎えた。

せいさんの嫁ぎ先は老舗荒物問屋だったが、夫が芸人と寄席に夢中になり、店が傾いてしまった。そのため、「あんさんが一番好きなことで商いしなはれ」と夫の尻をたたき、寄席を買収して寄席経営に乗り出した。一代で笑いの王国を築き上げ、女今太閤とも言われた立志伝中の人物。2年前にNHK連続テレビ小説「わろてんか」のヒロインのモデルとなったように、小説、映画、ドラマ、舞台などに度々登場している。

今回の舞台は松竹の製作だが、冒頭に吉本に所属するタレントたちの写真や映像が流され、随所で吉本の歴史も語られ、ライバル吉本へのリスペクトが舞台にあふれる。とりわけ、せいさんが「笑いは生きる力」という信念のもと、芸と芸人を愛し、数々の卓抜したアイデアで寄席を盛り上げ、戦争で寄席も買収した通天閣も焼失するなどの逆境をも克服していく姿が丁寧に描かれている。

せいさんは、今にも通じる逸話・名言を残している。寄席の主役である芸人を愛したせいさんは、阪急や阪神の定期券を大量に買い込み、芸人たちに交通費代わりに貸し与えた。その理由は、日ごろ、世間から軽く見られがちだった芸人に、当時の会社勤務の人たちのステイタスの象徴でもあった定期券を持つことで、プライドを保たせるためだった。

「誰の意見でもありがたく聴くこと。実行する、せんはこちらが決めればよろし」「心許す時は、しっかりその人を見なはれ」は、柔軟な思考を持つ、せいさんらしい言葉だろう。横山エンタツ・花菱アチャコの「しゃべくり」に徹した漫才を後押ししたのも、せいさんだった。時代の流行を見分ける嗅覚は抜群で、漫才は今も吉本の屋台骨を支えている。

そして、舞台でも語られた「興行師は間はずしたら命とりやで」という言葉は、吉本の現状を見ると、かなり皮肉に聞こえる。稚拙な社長会見で、混迷に拍車をかけた展開は、まさに間を外しまくっている。吉本では舞台「笑う門には福来たる」観劇を社員たちに勧めていたというけれど、見るべきは、岡本社長をはじめとした経営幹部だったろう。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)