ジーコ氏(70=鹿島クラブアドバイザー)は、日本代表監督時代に風格とプライドをもたらしてくれた。それまで、日本サッカー協会(JFA)やコーチングスタッフに代表選手は徹底的に管理されてきた。自主性を促し、JFAにも意識を植えつけた。当時のプロ意識を高める働きかけが、海外組が増えた今でも選手が自己管理できる下地につながっている。【取材・構成=盧載鎭、岩田千代巳】
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-ジーコジャパン時代は「黄金の中盤」がいて攻撃的なサッカーで見ていて楽しかった
ジーコ氏 今の選手と私の時代の選手を比べるのはとても難しいと思うし、公平ではない。ただ、やはり私がいた時は攻撃的な選手が多かったのではないかと思う。それが私の指導、攻撃的なサッカーにもはまったかと。今、森保(一)監督がしているサッカーは、今いる選手の中で、できることを全てやっているのではないかと思っている。森保さんの中で、今いる選手でやれることをやっていると理解している。だから比較することはできないね。
-森保監督は、世界のサッカーに対する日本の立ち位置を考え、最善の戦術でW杯を戦ったと見るか
ジーコ氏 今は情報社会でもある。たくさん対戦相手の情報も得られて分析が可能になっている。その上で組んだ戦術なのだろう。対戦相手を見極めながらのサッカーができていた。それが私の視点であり、最善の対策ができたからこそ、グループ(1次リーグ)を突破できた。正直(PK戦の末に敗れた決勝トーナメント1回戦)クロアチア戦も勝てたのではないかと思っているよ。何度も言ってしまうが、私の視点では2試合目のコスタリカ戦でメンバーを変えたところ(ターンオーバー)だけが疑問だね。そこが唯一、私とは考えが違った。繰り返しになるが、W杯は限られた期間で行われる大会。選手をうまくマネジメントすることができれば、この短い大会期間の中でも、同じ選手をうまく使い回すことができる。しかも、ドイツに1試合目で勝って、次こそ大事な2試合目だったので。そこで、あの2戦目だけメンバーを変えるのは私とは考え方が違った。代表選手は、疲れていても必死で戦う準備をしている。何よりプライドがある。
-その考えはジーコ氏らしい。日本でもセレソン(ポルトガル語で代表、選抜)の人格、能力、プライドを尊重してくれた。昔、海外遠征でJFAのスタッフが選手部屋の冷蔵庫から事前にビールを抜いていたそうだが、あなたが「セレソンなんだから人格的にも優れている。ビールなど飲むか」と怒ったことがあると聞いた。そこからJFAは代表選手に対する考えを改めた。
ジーコ氏 まず、私は選手を監視することがあまり好きではない。なぜかと言うと、選手はしっかりグラウンドの中で結果を出せばそれでいいからだ。ピッチ外のところは、あまり干渉する必要がないし、信頼関係でもある。ビールが冷蔵庫の中に入っているか、入っていないかは特に問題ない。入っていなくても、本当に飲みたい人間はコンビニに行って買って飲めるからね。だから、そこは選手を信頼することが大事だと思う。選手は1人1人、責任感を持って行動しないといけないので、私たちが干渉すべきことではないし、そこは口を挟むところでもない。日本代表でも所属クラブでも同じことだ。
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ジーコジャパン以降、JFAは代表選手への認識を変え、選手間にも自己管理の重要性が浸透している。今や、ほとんどの代表選手が欧州組だ。さまざまな国に飛び込んで結果を残す選手が増えているのも、日頃から自己管理できているからこそ。いわゆる「プロ意識」を植えつけたのは“神様”ジーコ氏の功績でもあった。(おわり)

