義足の8メートル・ジャンパー、マルクス・レーム(29=ドイツ)が世界新記録をマークした。男子走り幅跳び(切断などT64)決勝の最終6回目に8メートル47。自らが持っていた記録を7センチ更新した。

 空中高く舞った185センチの長身が砂に着地した瞬間、メーンスタンドは静まりかえった。続いてどよめきが広がる。そして、フィールドの掲示板に記録が映し出されると、大きな歓声に変わった。レームは何度もスタンドに向かって両拳を突き上げた。

 2日間の競技の最終種目を快記録で締めくくった。16年リオデジャネイロ五輪の優勝記録を9センチ上回り、今季の健常者の記録でも世界3位に並ぶ。「今日は1回目から感触がよくて、記録が出そうな予感がしていた。日本で跳べてよかったよ」。最初に8メートル18と跳んだ後は踏み切りが合わずに苦しんだが、それは助走がトップスピードに達していた証拠。5回目に8メートル27に伸ばして準備を整えていた。

 15年10月の世界選手権で8メートル40を跳んだ。リオ五輪参加標準記録をクリアして出場を熱望したが、国際陸連は義足が競技に優位に働いていないことを証明するよう要求してきた。願いはかなわず、パラリンピックでは8メートル21の大会新で12年ロンドン大会に続く連覇を飾った。ロンドンの記録は7メートル35。急速な記録の伸びに、カーボン製の義足の影響が取りざたされた。しかし、レームが使う義足は12年当時から同じものでまったく変わっていない。

 「シリアルナンバーを見せてもいいよ。壊れたりすれば取り替えるけどね。パラスポーツの素晴らしさ、可能性を知ってもらいたくて努力してきた結果なんだ」。リオ後も厚い壁を打ち破るべく関係各所と折衝、調整を続けている。「五輪とパラリンピックはもっと近い関係になった方がいい。選手同士、競い合える方がお互いのためにいいと思う」と言葉に力を込めた。

 マイク・パウエル(米国)が91年の世界陸上東京大会でマークした8メートル95の世界記録に話が及ぶと、少し困ったように笑って言った。「すごい記録だから簡単ではないけど、いつか超えられるようにトレーニングを続けたい。20年東京で? もしそうなれば最高だね」。今年8月には欧州選手権、来年はUAEで世界選手権も行われる。2年後に日本にやって来るまでに、レームはどこまで記録を伸ばすのだろうか。【小堀泰男】

 ◆マルクス・レーム 1988年8月22日、ドイツ生まれ。14歳の時にウエークボードの事故で右膝下から切断。20歳から義足で陸上を始めた。義肢装具士の資格を持ち、仕事で障がい者を支えている。