「人類最速」の称号を手にしたのは、イタリアの新星だ！　男子100メートル決勝でラモントマルチェル・ヤコブス（26）が、欧州新記録でイタリアに初の金メダルをもたらした。追い風0・1メートルの条件下で9秒80。08年北京五輪から3連覇していたウサイン・ボルト（ジャマイカ）が17年に現役引退後、初となる五輪で王者に輝いた。2位は9秒84のカーリー（米国）、3位は9秒89のドグラス（カナダ）だった。

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ヤコブスは落ち着いていた。場内の照明が落ち、光を使った演出を経て迎えた号砲。隣の4レーンを走る英国のヒューズがフライングで失格となった。2度目のスタート。大きなストライドで中盤から伸び、そのスピードは落ちなかった。19年世界選手権は10秒20で準決勝敗退。数年前まで五輪の金メダルを、誰も想像していなかった。イタリアの国旗をなびかせ、笑顔に世界一の喜びがにじんだ。

本命不在だった。今大会は19年世界選手権優勝のクリスチャン・コールマン（米国）が、薬物規定違反による資格停止で欠場。準決勝2組では金メダル候補だったブロメル（米国）が3着にとどまり、決勝進出を逃した。準決勝の全体トップは中国の蘇炳添。誰も予想できないレースだった。

イタリア勢の100メートル五輪金メダルは初の快挙。欧州勢でも92年バルセロナ五輪のクリスティ（英国）以来、29年ぶりとなる。長らく北米、中南米の実力者が力を示してきた。ヤコブスは米テキサス州で生まれ、幼少期からイタリアで過ごした。「人類最速の男」を争い、世界中で注目された男子100メートル。東京・国立競技場から、新たな時代へのドラマが始まった。

◆ラモントマルチェル・ヤコブス　1994年9月26日、米テキサス州生まれ。幼少期に母の母国イタリアに移住した。18年欧州選手権11位、19年世界選手権では19位。趣味はF1観戦とバスケットボール観戦。憧れのスポーツ選手は英国人F1ドライバーのルイス・ハミルトン。愛称は「クレージー」。

◆欧州勢の五輪男子100メートル王者　92年バルセロナ五輪のクリスティ（英国）以来29年ぶりの優勝。60年ローマ大会を制したハリー（ドイツ）をはじめ、72年ミュンヘン五輪のボルゾフ（ソ連）、80年モスクワ五輪のウェルズ（英国）が欧州勢として金メダルに輝いており、ヤコブスが5人目。