最先端テクノロジーを生かした打撃練習が、ソフトジャパンのメダルの裏にあった。

決勝まで全6試合で6本塁打の20得点。打線が活発だった一因は、直前の強化合宿にある。ライバル国のエースを極限まで再現した“クローン”を打ち込んでいた。コロナ禍で強化試合が限られ、海外投手の対応が難しくなる中での、まさに極秘の特訓。情報の解禁は決勝後という条件で、取材が許された。

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6月の強化合宿。見慣れないマシンが高崎・宇津木スタジアムに運ばれてきた。スクリーンがあり、そこにはライバル国の好投手が映し出される。米国の剛速球が武器のアボット、ドロップの切れ味世界一のオスターマンはもちろん、他のライバル国の主戦級ピッチャーも。その映像の手元からは…ボールが飛び出してくる。実際に対戦しているかのような臨場感がある。

驚くのは、繰り出される、そのボールの質だ。スピード、スピン、変化量、軌道。まさしく本当に、その投手が投げているように、極限まで再現されている。主将の山田は「相手をよりイメージし、練習できる。それは試合につながっている」と話した。対戦機会が少なく、目が慣れていない投手との対戦が多くなる国際大会。その中で、あらかじめ投手のイメージをより鮮明にできるのは、大きなアドバンテージだった。

日本ソフトボール協会は17年からNTTコミュニケーション科学基礎研究所の柏野多様脳特別研究室と共同実験を行う。この“極秘特訓”は、その最先端技術が集約されたものだ。

同研究室の山口真澄さん(45)らスタッフがリーグ戦や海外の試合を転戦。許可を得た上で、ライバル投手をバックネット裏からハイスピードカメラで撮影した。高性能なカメラによって、フォームだけでなく、球速、回転数、回転軸、変化量、軌道、投げだし角度などを高精度で解析。投球フォームの微妙な癖まで含む集めた細部までデータを集め、それをバッティングマシンでリアルに再現した。剛速球も、伝家の宝刀の変化球も練習から打ち続けることが可能にした。過去の合宿などではバーチャル・リアリティー(VR)技術を駆使し、対応力を養ったこともあったが、もはや仮想空間ではなく、現実に再現できる時代になった。

同研究室の柏野牧夫室長(57)は「対応力を身に付けるには次にどうなるかとの予測モデルを脳が持っていることが大事。予測モデルを最適化する一番の方法は、実際に投手を打つ経験することだが、その正確なモデルを持てるようにした」と話した。【上田悠太】