男子60キロ級で16年リオデジャネイロ五輪銅メダルの高藤直寿(28)が、決勝で楊勇緯(台湾)を延長の末に指導3の反則勝ちで下し、今大会の日本金メダル第1号となった。

全4試合中3試合が延長戦となる激戦で、執念で五輪王者の称号を手にした。

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高藤は金メダル獲得の瞬間、右手を高々と突き上げて喜びを表現した。日本勢の同階級では4大会ぶりの頂点となったが、最後は柔道家らしく畳に正座して深々と一礼。「全てのことに感謝」の気持ちを込めた。

楊との決勝は延長の末、指導3の反則勝ち。全4試合中3試合は延長戦に突入し、計30分5秒の激闘となった。意地と執念で五輪王者となり「豪快に勝つことはできなかったけどこれが僕の柔道。日本武道館で金メダルを取れたのは幸せ」。涙と笑顔が交ざったぐちゃぐちゃな顔でこの日を思い返した。

2度目の五輪は、「世界一強いパパ」を証明するためでもあった。5年前に1歳だった長男登喜寿(ときひさ)くんに金メダルを見せられず「父親として情けない…。すみません」と涙した。報道陣の取材後、トイレで四つんばいになって付き人の前で泣き崩れた。

あの日の悔しさを絶対に忘れない-。自宅の居間に2個のメダルを飾って原動力にした。1つはリオ五輪の銅メダル。もう1つは昨年7月25日に所属の吉田秀彦総監督から「本当だったら今日が金メダル」と贈られた手作りの金メダルだ。

コロナ禍で大会開催不透明の報道が続いた中、五輪への強い気持ちを維持するために色の異なる2個のメダルを日々目にした。昨年、登喜寿くんが運動会で取ったメダルを自慢げに見せてきてポツリと言った。「何で金メダルじゃないの? こっちは金メダルだよ」。物心がついた小学生の息子からこう問われ、父親の心に一層火が付いた。

「パパが本物の金メダルを見せてやろう。もうちょっと待ってろよ」

2度目の大勝負へ、長男と長女美蘭(みらん)ちゃん(4)も「世界一強いパパ」になることを願い、折り紙の「金めだる」を貼った絵を描いて自宅で声援を送った。

リオ五輪後はお家芸ならではの“メダル格差”を痛感した。自身を金メダリストの「背景のような存在」と受け止め、反骨心を持って心技体を磨いた。平常心を保てなかった5年前の苦い経験から想定外に対応するためにも験かつぎを廃止。己を信じて歩んできた。やんちゃだった柔道家も今では2児の父として、地に足をつけて、相手と駆け引きする深みのある柔道で頂点に立った。「人生を懸けて死に物狂いで戦う」と誓って臨んだ夢舞台。悲願の世界一強いパパとなった。【峯岸佑樹】