16年リオデジャネイロ五輪銅メダルの永瀬貴規(27=旭化成)が悲願の金メダルを獲得し、5年前の雪辱を果たした。決勝でモラエイ(モンゴル)を下した。

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永瀬が中学まで柔道に打ち込んだ、地元長崎の道場「養心会」。基礎を落とし込んだ1939年(昭14)生まれの山口末男さんは、1つのことを伝え続けた。

「きれいな技をかけたら相手もけがをしないよ。それで一本を取れば、内容的にも素晴らしいのだから」

中学2~3年の頃に1度、厳しく諭したことがあった。長崎市の大会。技をかけようとしたところ、相手の対応を察知し、すくい投げで勝利を手に入れた。

「今ので勝ったと思うな! 得意技で投げろ! 本当の技っていうのは、どういうのだか分かるか?」

相手の陣地ではなく、自らの陣地に引き込む。そこから磨き上げた技で投げることで、自信を持たせた。

当時、永瀬はあまり人の前に立つタイプではなかった。写真撮影でも中心ではなく、1歩引く。日本を代表する選手になっても人柄は変わらず、山口さんは「優しい子。年末年始にうちに来ても孫と写真を撮って、サインも書いてくれる」と言った。畳の上とのギャップも大きな魅力だった。

長崎日大高から筑波大、旭化成へと進み、27歳で五輪金メダルをつかんだ。決勝は延長戦。極限の状況で投げきり、頂に立った。【松本航】