女子78キロ超級で19年世界選手権覇者の素根輝(あきら、21=パーク24)が、初出場で金メダルを獲得した。決勝で12年ロンドン五輪覇者のイダリス・オルティス(キューバ)に延長の末、指導3による反則勝ち。同階級では04年アテネ五輪の塚田真希以来の頂点に立った。日本女子は今大会4個目の金で男子と合わせて9個となり、アテネ五輪を抜き日本柔道史上最多。女子のメダル総数6個もアテネに並ぶ最多となった。

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主審から「勝利」を告げらると、自然と涙がこみあげた。素根は両手で顔をおおい、深々と一礼。会場の拍手でさらに感極まった。

「本当にがんばってきて良かった…。この日をずっと夢見てきたし、それが実現できてうれしい。小さくても努力すれば必ず勝てることを証明したかった」

相手は12年ロンドン五輪金、16年リオ五輪銀メダルの百戦錬磨のオルティス。162センチの小さな柔道家は、左手の拳を難敵のあごに突き上げるような組み手で圧力をかけ続けた。

「絶対に負けない」

大内刈り。体落とし。

前へ、前へ-。得意技を何度も出して、巨体を浮かせた。8分52秒。ついに勝負を決めた。

夢の五輪へ-。誰よりも努力を重ねてきた。柔道経験者の“鬼”の父行雄(59)さんが師匠だった。「3倍努力」を座右の銘に、練習の虫となった。

「努力は裏切らない」

自宅の一部を改装してトレーニング室にして器具を整備。小学生から筋力トレーニング、柔道着をかぶせた器具に40キロの重りを付けた。納得するまで続けた。午後11時頃まで続き、腕立て伏せ200回を就寝前の日課に。打ち込みは多い時で1日1000本以上は当たり前だった。

技の切れ味は78キロ超級で随一。しかし、小柄なため五輪代表を争った18、21年世界女王の朝比奈沙羅らの大きい相手に押しぶされた。18年全日本選手権の前日会見で「出た芽は摘む」と朝比奈から“口撃”され、勝負師としての闘争心がさらに燃えた。

「最後は自分が勝って、笑ってみせる」

小さい体を武器として、延長戦でも絶えられる無尽蔵のスタミナ強化をより一層励んだ。

19年11月に柔道日本代表で五輪第1号に内定したが、コロナ禍の影響で気持ちが揺らぐ時期もあった。昨夏には環太平洋大を退学。連日の五輪開催不透明の報道に胸が締め付けられた。

「どうなってしまうのか分からなかった。道着や畳を見たくない。柔道が嫌と思う時もあった。けど、この日を信じて、継続してやってきて良かった」

表彰式でメダルを手にし、じっと見つめた。

「いろんなものが詰まった特別な金メダル」

名前の通り、最高に輝く1日となった。【峯岸佑樹】