東京オリンピック(五輪)・パラリンピックの選手村が13日、開村した。村長として206の国・地域からアスリートを迎え入れる川淵三郎氏(84=日本サッカー協会相談役)が取材に応じ、新型コロナ禍の中で迎える大会に「メダルの数より、いかに感染者数を抑えるか」が重要との認識を示した。異例の無観客開催にも理解を示し、森保一、高倉麻子の両監督が率いるサッカー男女日本代表にもエールを送った。【取材・構成=木下淳】

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-五輪開幕まで10日となった。「人生最後の大役」と話していた選手村の村長として開村を迎えた

「村長最大の仕事は入村式になるはずだった。200超の選手団を5回ほどに分けて迎える歓迎式典が、感染予防で中止に。残念だけど、各国のCLO(新型コロナ対策責任者)との会議で情報を集めたり、僕なりに感じたことを言って、選手が過ごしやすい雰囲気づくりに気を配りたい。陽性者が出たら迅速に隔離する。都民、国民に迷惑をかけず終わることが理想だ」

-過去大会のように村内で交流することは難しい

「僕の時(64年東京大会)は村内にダンスホールもあった。日本人は男性も壁の花だったけどね。今回はメインダイニングでも『早く食事して早く退出しなさい』。一番コミュニケーションが図られ、友情を育める場所の変化が象徴しているが、選手には我慢と集中の大会になる。そこで結果を出せるか、が選手と大会の新たな価値になる」

-選手村で飲酒できることには国民が怒った

「(サッカーの)02年の日韓W杯ではフランスが2万本くらいワインを持ち込んでいた。彼らは昼、夕の食事で飲む文化がある。一方で1日1本までのルールがあった。飲まない人の分をもらって2本、3本はダメ。今回、フランス選手団が持ち込むかはわからないが、居室で楽しむ分には。各居住棟には監視員が配置され、違反すれば資格剥奪もある。選手がルールを破るとは思えない。僕は普段は飲まないけれど、前回64年の東京五輪の2年前にマレーシアでのムルデカ大会で、すごく疲れていてクラマーさんから食欲増進のために『ビールを飲め』と言われた。日本代表の食事会場でお酒が出たのは初めてで、確かに食が進んで助かった。悪いことばかりではない」

-セッション(時間枠)の約96・5%が無観客に

「残念だが、決まった以上は尊重したい。国民の応援があればアスリートの力も自覚も倍増し、アドレナリンが出て、大記録が出たかもしれない。だが今回はメダルの数より、いかに感染者数を少なくするかが大事。どれだけ出さずに五輪期間を過ごせたか、が国の一番の価値になる」

-まだ懐疑的な声もあるが、理解は得られるか

「希望、勇気、感動。そんな甘い言葉で五輪を語るな、と、さも悪であるかのように言われてきた。コロナ発生後は国民の心がすさみ、陰鬱(いんうつ)な時が続く。何か言えば罵詈(ばり)雑言に誹謗(ひぼう)中傷の嵐。僕でさえ発信をためらうほどだったが、五輪が開かれるからには選手に希望を見たい。本来の五輪に戻すチャンス。大会後も再び肥大しないよう、制限下で開催された大会の全てを継承すべき。後世に残すのは記録であって、禍根であってはいけない」

-2月に森前会長から後継指名されたが、受諾撤回。自身の「相談役として残ってほしい」等の発言もあり「密室人事」と批判された

「密室も何も、全てをしゃべっちゃった。僕の任にあらずと最後はお断りしたが、森さんや組織委の努力をお聞きしたら断れなかった。そうしたらマスコミが自宅の前に山ほどいて。僕はサービス精神旺盛だから…。何でベラベラしゃべっちゃったのか。後で考えたら、あの数日後にIOC等との協議があり、その日に間に合わないとまずい、早く決断しなきゃ、と思い込んでいた。異常な精神状態だった。でも(橋本)聖子さんで本当に良かったと思う。無観客にはなったが、選手を思って一生懸命やってくれた。僕では身が持たなかった」

-サッカー男女の森保監督、高倉監督への期待は

「(当時JFA強化委員長として)選手だった森保監督と『ドーハの悲劇』を経験した。オフト監督に『彼はどこの選手?』と聞いた日が懐かしい。欧州組も含め、森保監督に対する選手の信頼度は抜群と聞いている。何とかメダルを、銀以上を。(銅メダルの68年)メキシコ大会を超えてくれることを、こいねがう。高倉監督は新旧混交で編成が難しい時期から、若手をどんどん登用して現チームにたどり着いた。実力的には世界トップ3にはまだ至っていないとは思うけど、一発勝負の流れ、地元開催を味方にすればメダルは可能。ぜひ頑張ってほしい」