残り4試合となった関東サッカーリーグ1部が、例年以上にヒートアップしている。「キャプテン翼」をモチーフにした南葛SCの下馬評が高かったシーズンにあって、東京ユナイテッドFC(東京U)が依然として首位に立っている。
■勝ち点1差の2強
14節を終えて12勝1分け1敗の勝ち点37。同じく12勝(2敗、勝ち点36)の南葛SCを1差で上回っている。
リーグ再開となった8月24日、東京Uはホーム小石川運動場に日本大学N.(エヌ・ドット)を迎えた。あちらこちらで肉弾戦が展開される激しい試合になった。日々体を鍛え上げている体育会サッカー部を相手に、攻守に渡って走り、戦い続けた。
そして後半21分に途中出場のMF室崎雄斗のゴールで挙げた1点をしのぎ、泥臭くも勝ち点3を積み上げた。
続く同31日は味の素フィールド西が丘で行われた桐蔭横浜大戦。前節に続く体育会サッカー部を相手に一歩も引かずに激しくぶつかった。
均衡破れず終盤まで0-0で進んだ中、終盤はピンチの連続。だがそこをしのぐと、後半43分にチャンスを逃さなかった。
巧みな連携から途中出場したMF伊藤光輝が値千金のゴールを奪う。さらに1分後、MF高木俊幸の右からのクロスボールをFW松久保がワンタッチで押し込み加点した。追加タイムに相手に1点を返されたが、粘り強く勝ち点3をつかみ取った。
一方の南葛SCも24日の桐蔭横浜大戦を3-0、30日はVONDS市原SCを4-0と一蹴。攻撃力を前面に押し出し、地力の違いをまざまざと見せつけた。
その関東の覇権を争う両者は次節の9月6日に激突。正真正銘の優勝を懸けた大一番となる。
■リーグ最少の9失点
好対照な両クラブ同士だ。
南葛SCは葛飾区からJリーグ加入を掲げ、本格的な強化を進めているプロ集団だ。何より攻撃的サッカーで日本を代表する指導者、風間八宏監督が率いる。そのサッカーは洗練されており、技術をベースにした攻撃力は圧倒的に高い。今季14試合で41得点と1試合平均ほぼ3得点を記録している。
一方の東京Uは東大卒の福田雅監督(50)に率いられ、本業を別に持つビジネスパーソンの集まりだ。昨季までJリーガーとして活躍した高木も、スポーツ施設で仕事をする傍らアマチュアで参加している。
粘り強く戦うスタイルが示す通り、リーグ最少の9失点(南葛SCは15失点)。総得点は26と1試合平均2点弱だが、接戦を制する勝負強さを持ち味としている。
東京Uは東大と慶大サッカー部OBたちによって始まり、2017年から学校コミュニティーと地域コミュニティーとの融合を図り現在のチーム名となった。 その沿革の通り、教育的な香りを色濃く残す誇り高きクラブ。共同代表でもある福田監督のキャリアがそれを物語る。
東京・暁星高から東大へ進学した。サッカー部主将を務め、卒業後は公認会計士試験に合格し、世界四大会計事務所の1つであるPwCや、外資系投資銀行を経て、日本最大級の金融機関でもあるみずほ証券でビジネスパーソンとして活躍。現在は自らの事務所を構える経営者であり、日本サッカー協会監事や文京区教育委員などさまざまな要職に就いている。
「僕はサッカー選手としては五流ですから」と笑う。選手、指導者としてプロサッカーの世界で活躍してきた風間監督とは、まったく異なる歩みを持つ。
ただ熱血ぶりは負けていない。
■吉田松陰の「狂いたまえ」
選手たちは仕事に励みながら、朝夕の時間を活用して練習に取り組む。平日の午前6時半から小石川運動場で走り込み、そこから勤務先へ向かう。24日の日本大学N.戦後の光景はまた印象的だった。
出場時間の少ない選手や控え組は試合終了後から会場に残り約1時間、トレーニングマッチに汗を流していた。翌日は月曜日。朝からみな仕事を抱えているにもかかわらず、懸命に体を追い込んでいた。
選手に付き添い、ハードな日常を過ごす福田監督はこう言う。
「アマチュアだからと言って、サッカーに対する情熱、愛情はプロにも負けません。むしろ情熱がないとやれないんです。物理的に割ける時間は少ないかもしれないけど、だからこそ、その瞬間における没頭は半端じゃありません」
戦う選手の姿はまさしく福田監督の言葉通りだ。
見栄えのいいサッカーとは言えないが、泥臭く体を張って守り、こぼれ球はいち早く大きく蹴り返す。
手数をかけず、スピードのあるMF滝沢和司、高木俊幸らがサイドから切り込んでいく。果敢にゴールに飛び込んでいくFW松久保拓斗の姿もチームを体現したものだった。
「吉田松陰が言ったように“諸君、狂いたまえ”です。狂って狂って目いっぱいエネルギーを出して、自分のキャパを広げて。そこに初めて自分の境地が開拓できると僕は思っているので。とにかくオレを信じて追い込まれろと言っています」
それは自身の苦い経験に基づくものだ。
■反骨心がエネルギー
暁星高では東京都代表で全国高校サッカー選手権に出たが、一度も試合に使ってもらえなかった。自分が生きる道を考えた。
反骨心をエネルギーに2浪の末、東大に合格した。全力を尽くして目標に邁進することの尊さを覚え、人生を切り拓いてきた。その自負があるこそ、こう言う。
「サッカーがすべてを教えてくれたし、世の中の人生の縮図だと思う。このピッチのどこを走るか? どういう振る舞いをするかでその人の生き様が見える。こうありたいと思うからこそ、ピッチ上の振る舞いが自分を律する。監督になった今もここが全てを教えてくれる。追い込んで追い込んで、腐るほど勝って、腐るほど負けて、そこで見えてくるものがある」
監督という立場だが「指導者」という表現を嫌う。
「僕は何も指導なんてしてないから。選手を1人の大人として扱っているし、対等な関係の中で堂々と主張してこいと言っている。だから何かを指導しているつもりはない」
「僕はサッカーの『やり方』は教えられないですけど、人生の『あり方』を問い続けることはできます。その正解は一つに決められないけれど、彼らにも彼らなりの人生の『あり方』を見いだしてほしい。他人をうらやむような人生を送ってほしくない」
監督として、答えを押しつけるつもりは毛頭ない。だからピッチで戦う選手たちがおのおので何をつかむか。ただ何かしらかのベンチマークは欲しい。だから自らが一つの基準となって、各自に答えを問い続ける。
「僕自身、(暁星高時代の)恩師の林先生の言うことがすべて正しいと思っていたわけではないし、ただ、受けた多くの教えに対して自分なりにオレはこう思うという、自身の『あり方』の正解を見つける過程における大きな壁打ちの存在だったんです。自分自身も彼らにとっての、そういう存在になればいいかなと思います」
サッカーを知り尽くす風間監督は戦術をチームに落とし込める真の指導者だ。それとは対極的に、戦術より戦う姿勢や振る舞いを問い続ける異端のモチベーター、それが福田監督である。
■「良き社会人たれ」
東京Uのスローガンは「良き社会人たれ、良きサッカー人たれ」。エンタメ性を持って地域に活気をもたらそうとする南葛SCとの違いが如実に分かる。
サッカースタイル、クラブの成り立ち、そして監督の志向も含め、まったく異なる両チームが関東の覇権を争っている。
大一番の見どころを問うと、迷わずこう話した。
「攻撃ってタレントなんですよ。やり方を教えたところで簡単に身に付かない。タレントを持たない人間は、ゴールに入れさせない方が絶対に簡単だから、僕はゴールに入れさせないことを全員に共通理解としてピッチで体現させたい。ピッチのどのエリアでも強度を落とさないことはもちろん、失点はいつでもその一手前、二手前に伏線がある。だからそこを消せ、どのゾーンにおいても失点に対して責任を持てと言っている。失点の要因を消せ、と。サッカーって点を取れれば勝てるけど、逆を言えば点を取られなければ負けない。僕ら能力のないチームは弱者の戦い方を落とし込んでいる。だから南葛と僕らは、強者対弱者の戦いなんです」
そう説明した上で、こう口にした。
「雑草がどう勝つか」
知性と野生をうたう「文武融合」のチーム。その将は南葛SCへのリスペクトを込めた上で、そう言葉にした。
9・6、葛飾区奥戸総合スポーツセンターで午後6時のキックオフ。異色のライバル対決は、いやが上にも燃え上がる。
【佐藤隆志】









