フットサル界の「キング」と呼ばれる男は、46歳の今も戦っている。
森岡薫。昔と変わらぬ金髪にぎらついた目。圧倒的なオーラをまとい、コートに立っていた。
■「一番いい時の半分くらいです」
9月5日に千葉・バルドラール浦安アリーナで行われたFリーグカップ1回戦、立川アスレティックFC戦。持ち前のフィジカルの強さでポストプレーに徹し、チャンスとなればゴールに向かった。とても46歳とは思えない若々しさだった。
試合は第2ピリオドにPKから2-2の同点とされ、延長戦に突入する手に汗握るものとなった。結果的に攻撃に出たところの裏を突かれ、延長で3失点での逆転負け。2-5という結果となった。
試合を終え、森岡はサバサバとした表情で振り返った。
「こんな感じの試合になるだろうなって想像はしていたんですけど。ずっとリードしていたものの、相手も我慢強く戦っていたというのもあります。ただ見に来てくれた人たちには多分、すごく楽しい試合になったんじゃないかなと思います」
昔と変わらぬ力強い姿を随所に披露した。ただ、本人からすれば「一番いい時の半分くらいですね」と言う。
「昔はもう僕にボールが入ったらもう大丈夫だっていうくらいのレベル。今はもう周りに頼りながらやっていますね」
そう言ってほほ笑んだ。
森岡は今季限りで現役生活に終止符を打つ。クラブも公表している事実だ。
「プレーを見たいと言ってくれる人がたくさんいる中で、僕も納得した上で引退したいなって感じです。ただ引退を発表してから1回も後悔はしていない」
やろうと思えば、心身ともにまだまだピッチに立つことは可能だろう。だが元来の負けず嫌い。かつてのような結果が出せなくなったことで、自ら区切りをつけた。
「自分本来のプレーができなくなったというのを受け入れたから。本来のプレーというのは前で張ってゴールに絡むプレー。今、体力的にも上がってきてある程度いい感じにはなっているんですけど、自分が思うようなプレーにはたどりつかないというのを感じた。だからもういいかな、って」
■21歳でフットサルと出合い没頭
日系ペルー人の父とペルー人の母。12歳の時にそのペルーから家族で日本に移住し、日本国籍を取得した。サッカーを教わったこともなければ、チームに所属したこともない。
高校中退後、建設現場などで働いた。21歳で見た雑誌を機にフットサルを知った。個人参加型の「個サル」で技術を磨く。周囲に誘われるがままチームに入り、そこから生活を変えたいとの一心でフットサルに没頭。才能が開花した。
「サッカーという軸がなく、何もない状態でフットサルをやったので、変な癖というか、そういうのがなかったのが良かったかもしれないです」
28歳だった07年にFリーグが発足した。名古屋オーシャンズのエースとして初代王者に輝き、リーグMVPも獲得。そこからリーグMVPを通算4度、得点王も4度受賞している。
日本代表では12年にW杯出場も果たし、海外リーグでもプレー。2015年には世界最優秀選手の最終候補10人にもノミネートされた。Fリーグ通算397試合321得点、今季中には400試合の大台にも到達する。
自らの人生をたくましく切り開いた正真正銘のレジェンドである。
長くフットサルを続けられた原動力を問うと「家族です」と即答した。妻と3人の子供、息子2人はサッカーをやっている。自身が戦う姿を見せたいという思いがモチベーションだった。言葉で色々伝えるよりも、背中で語る男。その思いがここまで現役生活を長くしたのだという。
■「僕はカズさんじゃない」
所属するペスカドーラ町田のルーカス・キオロ監督(ブラジル)が言う。
「薫は日本のフットサル界のレジェンドだと思う。このコンディションを持って、46歳にしてこんなプレーができるのは彼の長所だろう。残念ながら今季限りで引退となるが、最後までいいコンディションでプレーできるようにさせたい。この1年、薫と一緒にできるのは本当に幸せだ。ブラジルでもこんな年齢までやっている(トップの)選手なんていない」
世界的に見ても「46歳」はあまり例をみない特別な年齢だという。
「昔、ギネス記録になった人で62歳というのがいた。ブラジルリーグだったけど。ただ、この62歳はチームの社長だった。ギネス記録を作りたいために試合に出たもので、薫とのレベルは全然違うものだった」
そう言って笑った。
日本サッカー界には58歳の「カズ」こと三浦知良がいる。12年のフットサルW杯で森岡は一緒にプレーしている。同じ「キング」と呼ばれる男。飽くなき挑戦心は尽きない。そんなカズの姿を自身に重ねたりしないのだろうか。
森岡はこう話した。
「素直に、本当にサッカーが好きなんだなと思います。気持ちは分かりますよ。僕もずっとやれるものならやっていたいぐらいです。だけど踏ん切りを付けたんです。僕はカズさんじゃないので。やっぱり家族のこともありますし、さっきも話した通り、僕は(自分の)前の結果にこだわってきた人なので。その結果をまた出さなければ、続けられる資格はないのかなと考えています。もちろん一生出たいという気持ちもありますけど、そこには限界がありますから。そして僕が1つ枠を空けることで、ペスカドーラから新たな選手が出てきてくれればいいなとも思います。もちろん居場所は用意されるものではなく、勝ち取らなきゃいけないという思いがありますけど」
■「昔は自分しか見ていなかった」
ゴールという結果に人一倍にこだわってきた。若い頃は「自分以外は見ていなかった。5対5の競技だけど“1対0”みたいな感じ。本当に自分のことで必死だった」と振り返る。
仲間にパスを回すのでなく“オレにボールを預けろ、オレが決める”。強い個性で人生丸ごと勝ち抜いてきた。そんな森岡も「周囲に対する気配りもできるようになった」とほくそ笑む。
引退を決めたことで、1日1日の過ごし方、心の持ちようも変わった。
「今、ものすごく楽しんでいます。今日も負けて悔しいですけど、若い頃と今とでは全然違う。昔は負けたら誰かのせいにしていましたけど、物事をいろんな角度から見られるようになりました。20年以上もボールを蹴ってきたけど、今は今後に向けて人間を磨く時期なのかなって考えています」
中断期を経て9月27日からリーグ戦は再開。現在チームは4位に付ける中、来年3月までシーズンは続く。
ラストイヤーでのタイトル獲得はなるか。昔と変わらぬギラついた目で“番長”は頂点を目指している。【佐藤隆志】








