「現場発」、このコラムの名の通り、現場からお届けします。

 W杯イヤー、18年の幕開けは茨城・水戸から、こんにちは。東京から常磐線特急ひたちに乗って水戸へ。偕楽園の回りを気持ちよさそうに走るランナーを目で追い、ケーズデンキスタジアム水戸に何とか到着しました。

 道路は大渋滞。地元の人が「こんな渋滞は初めて」と驚く混雑の中、元日本代表で02年W杯日韓大会1次リーグのベルギー戦でゴールも決めた、FW鈴木隆行氏(41)の引退試合を取材しました。

 1万人近い観衆で埋まったスタジアムに元日本代表のスターが集結。W杯日韓大会のメンバーを中心にしたチームと、水戸に縁の深い選手たちのチームが対戦。45分ずつ両チームでプレーした鈴木氏の最多5得点の活躍で、試合はキッチリ締まり、セレモニーも含め素晴らしい引退試合でした。

 プレーもそうですが、試合後のあいさつにグッときました。「感謝しかない」とこれまで支えてもらった人たちに丁寧に御礼を言い、四方に頭を下げる中、何人か特別な人の名が挙がりました。

 鹿島時代の先輩、奥野僚右氏(現福岡コーチ)に語り掛けたシーンでは、こらえ切れず涙し言葉に詰まり、会場からの拍手に後押しされ、言葉をつないでいました。

 「鹿島に試合に出れない6年目に、フロンターレの方にレンタル移籍しました。今、福岡にコーチでいる奥野さんと一緒に行きました。8月くらいまで試合に出れなくて、自分の力がなくて戦力外の扱いになっている時に鹿島の方から1本の電話がきて『出れないんだったら帰ってこい』ということで。でも、僕自身はフロンターレのために一緒に頑張ると、試合にも出ていないのに。奥野さんに伝えたときに『お前と俺の人生は違う』と言って、背中を思い切り蹴飛ばしてくれて、鹿島の方に帰らせてくれました。それがあったから、本当に日本代表まで行くことができました。本当にありがとうございました」

 そして、家族へのメッセージもまた、最高でした。

 「僕を小さいころからずっと支えてくれた、勉強を1回もしろって言わずに、ずっとサッカーだけをさせてくれた両親、本当にありがとうございます」。そして、愛妻と子どもたちへ「お前たちがいてくれるから、俺は生きていけます。本当にありがとう」。最高のひと言でした。

 あのW杯で、日本中を沸かせたベルギー戦の伝説のつま先弾から16年になります。今年はW杯イヤー。4大会前のW杯、5万超の埼玉スタジアムのゴールに負けない感動が、1万人弱のケーズデンキスタジアム水戸をつつんだ、そんな冬晴れの午後でした。

 サッカーにまつわる熱い思いを、日本中、世界中、そして6月にはロシアからお届けできるよう、そんな1年にできたらいいなと思います。そして日本サッカーがよりよいものになるために、何かができたら。

 一体何ができるか分かりませんが、今年もどうぞよろしくお願い致します。【八反誠】


 ◆八反誠(はったん・まこと)1975年(昭50)岐阜県生まれ。98年入社。06年からサッカー担当に。途中、プロ野球中日担当も兼務。14年1月から東京勤務。日本サッカー協会やJリーグなどを担当している。