複雑な心境だ。サッカー界にまん延する「マリーシア(ずる賢さ)」という言葉。正々堂々、潔く戦に挑む日本のスタイルには合わない。しかし過去に何度も「日本はマリーシアが足りない。マリーシアを身につけるべきだ」と指摘された。日本をW杯16強に導いたトルシエ監督は「赤信号、みんなで渡れば怖くない」とも言った。

 2つの思いが交差する。日本サッカー協会は、サッカーを通じた社会貢献、人間教育、子供の育成をうたっている。少なくとも「人間教育、子供の育成」の観点からすると、ポーランド戦の最後のボール回しは、正しい選択とは思えない。突破のために、ルール違反はしていないが、ずるいやり方を選択した。もし西野監督が子供チームを率いたのなら、この選択はしなかったのだろう。

 もう1つの視線。審判たちがよく言う言葉で「間違った判定(審判はこれを絶対に誤審とは言わない)も試合の一部」というのがある。VARの導入で誤審は大幅に減ったが、ペナルティーエリア外の誤審は、今大会も多く存在する。その誤審がきっかけで勝負の行方が決まることもある。FIFAも目をつぶる。誤審がサッカーの一部と認めている以上、最後のボール回しは正当なやり方だろう。サッカーというスポーツは、そういうものなのだ。

 2敗だった韓国は、最終戦でドイツに2-0で勝った。運も味方した。韓国人の私は、最後まで体を張るイレブンの奮闘ぶりに感動した。韓国でこの試合は、後世に語り継がれるだろう。しかし韓国は1次リーグで敗退した。長期的な観点では、どれがいいかは、まだ判断できない。しかし現在私の率直な気持ちは、W杯の大舞台でもう1試合できる資格を得た日本がうらやましい。

 私に2つの思いが交差するように、どれが正しかったかの結論を出すのは難しい。しかしこれだけははっきり言える。2期目に突入した日本協会・田嶋幸三会長のマニフェストには「育成日本復活」の言葉がある。田嶋会長は、ポーランド戦を良しとするなら「育成日本復活」は、目標項目から外してもらいたい。代わりに「勝利至上主義」という言葉に入れ替えるべきだろうと、思う。サッカーを通じて、厳しい競争社会を生き抜く子供を育てることも悪くない。【盧載鎭】

 ◆盧載鎭(ノ・ゼジン)1968年9月8日、韓国・ソウル生まれ。テコンドー有段者で、むかしは跳び蹴りと回し蹴りが得意だったが、今はローキックしかできない。96年入社。20年以上サッカー担当。2児のパパ。