いつか見てみたかった「ノノさんの涙」をこんな形で見ることになるとは想像していなかった-。
Jリーグのチェアマンに元北海道コンサドーレ札幌会長の野々村芳和氏(49)が就任した。12日、札幌ドームでのホーム横浜戦がクラブの会長としてのラストゲームだった。試合後、サポーターからの大きな拍手が響き、選手やスタッフに囲まれてピッチを後にする際、メガネを外して涙を拭う場面があった。泣いている姿を初めて見た。
試合で泣いたのは学生時代まではたまにあったというが、Jリーガーの現役時代ではたった1度だけという。市原(現千葉)時代の98年ヤマザキナビスコ杯(現ルヴァン杯)決勝の磐田戦だ。野々村氏はMFで先発。だが市原は0-4で敗れて準優勝だった。「泣いたのはその時くらい。あの時は悔しくて、恥ずかしくて、マイナスの涙だったな」と当時を振り返る。
この思い出話を聞いたのは19年10月、札幌が川崎Fとのルヴァン杯決勝に臨む数日前だった。「同じ舞台で今度はうれし涙を流せるといいですね」と伝えると「どうだろね。もう1回こんな形(当時社長)で戻るとは思わなかったな」と感慨深げに話していた。札幌はPK戦の末に惜しくも準優勝。ただ、素晴らしい大激闘だった。試合後に会うと晴れやかな表情だったのが印象的だった。悔し涙はなかった様子だ。
だからいつか、目標のタイトルを手にした時にうれし涙を流す姿を見たいと願っていた。だが、クラブとの別れを惜しむ涙を見ることになった。その男泣きにはぐっと来た。すでに任務がスタートしたチェアマンは大変な役目。苦しいこと、つらいこともあるかもしれない。そんな時でも“古巣”の活躍にこっそり感涙することがあればいいと願う。【保坂果那】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)