全国高校サッカー選手権は、岡山学芸館の初優勝で幕を閉じた。大会の取材を通し、最も印象に残った敗戦チームは、近江(滋賀)だった。
優勝候補の昌平(埼玉)に初戦の2回戦で敗れたが、前線からのプレス、後ろからボールをつなぎ縦に速い攻撃を仕掛けるアグレッシブさで、後半途中までは1-1と互角に戦った。
試合後のSNSでは「近江さん、素晴らしいチーム。来年も埼玉会場でやってくれないくれないかな」「近江は野球だけではなくサッカーも力を付けてきた」など、称賛の声が上がった。地元の昌平を応援していたスタジアムのファンの心をもつかんだ形だ。
選手のほとんどは町クラブ、中体連(中学の部活)出身で、部のモットーは「ビー・パイレーツ」(海賊になれ)。その海賊軍団を率いるのは、清水エスパルスなどでプレーした元プロ選手の前田高孝監督(37)だった。
試合後の取材エリアでは前田監督のユーモアあふれる言葉が続いた。
「昌平、その次の前橋育英を取ることでインパクトが残せる。この2試合は本当に準備をした。選手にも、“この2試合は本気で取りに行くぞ、その先の大津は知らん”、と話してきた」
2試合でのジャイキリ(ジャイアント・キリング)を狙った本気度が伝わってきた。
昌平のFC東京内定MF荒井悠汰は、複数の選手が取り囲み仕事をさせなかった。
荒井対策を問われると、「荒井君はパンツが短い、それに惑わされるな、と言った。選手もネットの動画でプレーはちゃんと見てますから、対策は自分たちで考えていた」とジョークを交えながら話した。
前田監督の目がちょっと潤んだのは、試合後のロッカールームのことを語ったとき。
「僕は7年、監督をやっていますけど。今まで1回も泣いたことがなかった。今年は、選手権の県大会決勝で泣けてきて。今日終わって、彼らの顔を見たときに、正直、昌平の試合はめっちゃ見てきて、本当に、かなり追い詰めた所まで行けたんですよ。本当によくやったよな、という話をしたら、泣きそうになった」
町クラブ出身の選手たちが、プロを輩出する昌平と対等に渡り合った。
「毎日こつこつやって夏以降ぐっと伸びた。あらためて1日の練習を一生懸命やれば、成長すると教えてもらった気がする」とねぎらった。
近江の主将でFW岡田凉吾(3年)は「近江のサッカーは有名ではない。みんな、後ろから蹴ると思っていたと思う。でも、しっかり全国で、強豪校相手にできるところは見せられたと思う」と胸を張り、「ビー・パイレーツ(海賊になれ)というモットーの中で、一番、海賊だったのは前田監督でした」。
監督に続き、岡田主将も取材エリアの笑いを誘った。
勝負には負けた。だが、近江のサッカーは観客の心に残る爪痕を残した。前田監督率いる「パイレーツ・オブ・近江」の続編は、今大会を超えるストーリーになると期待せざるえない。【岩田千代巳】




