プレーバック日刊スポーツ! 過去の12月14日付紙面を振り返ります。2003年の1面(東京版)は、当時カズも所属していたJ1神戸が民事再生法を適用しクラブ経営権を全面譲渡することを発表したことを伝えたものでした。

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 Jリーグに衝撃が走った。経営危機にひんしていたJ1ヴィッセル神戸は13日、民事再生法を適用しクラブ経営権を全面譲渡することを発表した。15日に東京地裁に申請する。支援していた神戸市からの負債が約16億円に膨らみ、根本的な経営改善のため「身売り」に踏み切った。すでにインターネット商店街国内最大手「楽天市場」を運営するクリムゾングループが入札に名乗りを上げており、来季からは新会社の運営で新たなスタートを切る。

 J1残留争いには生き残った神戸だが、クラブ経営では事実上の破たんに追い込まれていた。この日、神戸市内のクラブ事務所で行われた緊急会見で経営権の全面譲渡を発表。Jクラブの「身売り」という衝撃的な結末に、中野晴雄社長(64)は「何とか経営改善の努力をしてきたが、この状態では根本的な改善ができないと判断した」と沈痛な表情を浮かべた。

 94年に創設された神戸は、95年1月の阪神・淡路大震災の影響でメーンスポンサーのダイエーが撤退。伊藤ハム、ノーリツなどとともに神戸市が支援してきた。当初から財政は苦しく市はチームを「復興のシンボル」として金銭面の支援を続けてきた。だが、97年のJリーグ昇格以降、観客動員は1試合平均6000~7000人と伸び悩み、今季は1万1195人でJ116チーム中12位と収支は赤字続き。補強費を捻出(ねんしゅつ)できず、その場しのぎでつくられたチームは魅力に乏しく、広告収入や集客力を失う悪循環だった。

 現在の債務超過は約16億円で、そのうち15億2000万円が神戸市からの貸付金。市民の税金が、今回の民事再生法の適用でほぼ回収は不能となる。「会社は1度つぶれるが、チームを残すための手続き」と河井正和専務(48)。新運営会社を立ち上げるために、まず約16億円の借金を帳消しにする最後の手段に踏み切った。

 その新会社を設立するのが、経営コンサルティング・投資会社クリムゾングループだ。インターネット商店街大手の「楽天市場」も運営する三木谷浩史社長(38)が神戸市出身で、今春から交渉を進めてきた。同社の毛利寛取締役(37)は「地元の財産であるチームを支援する」ことと「民間の若い経営感覚を持ち込んで、ビジネスとして成功させることにチャレンジしたい」と説明。クラブ側が要望したチーム名、ホームタウンを変更しないなどの条件で合意した。ただ、すべてはJ1残留を前提とした交渉で、降格ならチーム消滅の危機だった。

 公正さを保つため、民事再生法適用による入札手続きをとるが、1月中旬にも経営権譲渡の契約が交わされ、3月には新たな運営会社が発足する。河井専務は「民間企業がメーンとなって運営する当初の形に戻るということ。安心できる再生」と強調した。存続危機にさらされるJ2鳥栖などJクラブの経営は決して盤石ではない。神戸の「身売り」は、日本サッカー界の危うい暗部をさらけ出すものとなった。

 ◆今後の手続き 神戸の運営会社「ヴィッセル神戸」は13日の記者会見で営業譲渡のスケジュールを明らかにした。15日の臨時取締役会で民事再生法の適用を受けることを決議し、同日中に東京地裁に民事再生手続き開始を申請して譲渡先を決める入札の告知を行う。入札は年明けに実施され、1月中旬の営業譲渡契約の締結、裁判所からの契約許可などを経て、2月上旬に新会社へ経営権を譲渡する予定。

 ◆J各クラブの経営規模 Jリーグが公開している資料によれば、03年予算のJ1クラブの平均収入は26億円で、J最盛期の94年の38億円の約3分の2でしかない。経営状況は厳しい。クラブごとの経営規模は公開されていないが、名古屋と浦和が推定45億円程度で最高クラスにあると推定される。磐田、鹿島、横浜などが、それに次ぐ40億円前後で続いているとみられている。逆に厳しいのが、仙台、市原、神戸、大分などで、20億円を切るレベルで運営を続けている。

 ◆Jクラブの経営危機 「Jリーグバブル」と呼ばれた人気がかげりを見せた96年ごろから「投資に見合わない」としてスポンサーの確保が厳しくなり始めた。最初に危機に直面したのは、97年の清水で、新運営会社を設立し、存続した。翌98年は激動の年となった。横浜Fが存続を断念し、横浜Mに吸収合併される形で、チームそのものが消滅した。また、Jリーグバブル時代の代名詞だったV川崎からも、読売新聞が撤退。新たに日本テレビが親会社となったが、経営規模は大幅に縮小された。平塚は、98年に人気選手の中田英が移籍してから厳しい状況におかれ、翌年には親会社のフジタの撤退が決定した。その後は、甲府が深刻な経営難に陥ったほか、鳥栖が毎年のように存続の危機にさらされるなど、特にJ2クラブが厳しい状況におかれている。

 ◆民事再生法 経営危機に陥った企業の倒産手続きを迅速化して再建を容易にするための手続きを定めた法律で2000年4月に施行。申し立て要件が緩く利用しやすいのが特徴。会社更生法などと違い、破たん前の「破たんの恐れ」の段階で申し立てができる。申請と同時に企業の財産は保全され、経営者は事業を継続しながら再建計画をつくることができる。

 ◆ヴィッセル神戸 94年、岡山県で活動していた川崎製鉄サッカー部を母体に創設。神戸市に移転し、Jリーグ準会員となった。95年1月、チーム始動日に阪神・淡路大震災が発生。出遅れが響きJFL6位も翌96年は同2位でJリーグ昇格を決めた。97年から7シーズンで99年の年間10位が最高。昨年と今季は終盤までJ2降格危機にあった。ヴィッセルは「VICTORY(勝利)」と「VESSEL(船)」の造語。

 ◆楽天市場(らくてんいちば) 97年2月に設立された「楽天(株式会社)」が、同年5月から開設したネット商店街。同ページは「買う」「売る」「落札」などでき、店舗を持たずに商売が可能なため人気が沸騰。国内最大規模となる7300店を超えるバーチャルモールに成長した。楽天は、今年9月には国内最大の宿泊予約ページ「旅の窓口」の運営会社マイトリップ・ネットも約320億円で買収。本社を東京・港区の六本木ヒルズに移転させるなど、業績拡大を続けている。従業員577人、平均年齢30歳。資本金164億2800万円(03年9月末現在)。代表取締役会長兼社長は神戸市生まれの三木谷浩史氏(38)。同氏は95年に投資事業も手がける経営コンサルティング会社「クリムゾングループ」を設立し、楽天などの事業を展開していた。

※記録や年齢、表記は当時のもの