名場面に名言あり。サッカー界で語り継がれる記憶に残る言葉の数々。「あの監督の、あの選手の、あの場面」をセレクトし、振り返ります。

「シュートはゴールへのパス」。

元ブラジル代表MFの「神様」ジーコが、決定力不足を課題にしていた日本サッカー界に向けて口癖のように言い続けた言葉だ。

日本代表の監督時代にはシュート練習を徹底的に行い、「ゴールの開いているところにパスを通しなさい。それがシュートというものだ」と、シュート成功のカギは落ち着きと正確性だと説いた。

当時の日本代表のシュート練習はDFを置かず、GK相手にいくつかパターンを変えながら打つというものだった。「GKを見て、いないところに蹴れ」「ゴールの端を狙って」「1本1本を大事に」。合宿中はほぼ毎日といっていいほど繰り返された。ただ、プレッシャーのない中でも成功率は3割程度だった。

こうしたDFを置かないシュート練習は実戦に即していないと批判もされた。結局、2006年ワールドカップ(W杯)ドイツ大会で日本は決定機をものにできず、1次リーグ3戦未勝利で敗退。ジーコは代表監督として結果を残すことができなかった。

だが一方で、そうした「ジーコ・スピリッツ」が常勝鹿島アントラーズの礎を築いたのは事実。

2018年アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)準決勝第2戦の水原戦で、ジーコ・テクニカルディレクター(TD)が見守る中、MFセルジーニョがGKの手の届かないようなコースに「パスを通した」。ジーコTD肝いりのブラジル人助っ人のゴールが決勝点となった。殊勲のMFは「トラップがうまくいき、『神様コース』にシュートを決めることができた。みんなの気持ちが入ったシュートだった」と喜んだ。

ジーコがTDとして16年ぶりに鹿島に復帰したその年、Jリーグの常勝軍団は初のアジア王者に輝き、最多20個目のタイトルを獲得した。