9月12日、日本初の女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」が開幕する。WEリーガーの最年長は、03年、07年W杯、04年、08年五輪に出場した、元女子日本代表(なでしこジャパン)FW荒川恵理子(41=ちふれASエルフェン埼玉)。トレードマークのボンバーヘッドで、日本女子サッカー史に生まれる歴史的瞬間に名を刻む。【取材・構成=杉山理紗】

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“ボンバー”といえば元日本代表DF中沢佑二さんが浮かぶが、女子サッカー界のボンバーは今も現役の第一線にいる。日本中を熱狂させた、04年アテネ五輪でのゴールから17年。41歳になった荒川は、最年長として「WEリーグ」に挑もうとしている。

昨季までは親会社である化粧品メーカー「ちふれ」の広報部に籍を置いていたが、リーグのプロ化に伴い今季、国内クラブとは初めてプロ契約を結んだ。

荒川 お金をもらってプレーすることが、女子サッカーでできるとは全く思っていませんでした。成り立っていけるのかな、という不安はありましたが、日本女子初のプロサッカーリーグに参加できるチャンスを頂けたのは、楽しみです。

周囲からは「41歳で現役なんて、すごい」という目で見られるが、荒川にとっては普通のことだ。01年に左肩脱臼の手術、02年には右すね骨折の手術と、大きなケガを乗り越えてきた。

荒川 41歳と言うと、自分でびっくり。ずっと14歳、中2で止まっているかな(笑い)。スポーツ選手は年齢で見られるけど、数字でしかない。ケガが多かったので、こんなに長くやるとは、自分でも思っていませんでした。

女子選手は男子選手に比べて、引退年齢が若い傾向がある。最も長く続けた澤穂希さんで、37歳。20代後半~30代前半で現役を退く選手が大多数だ。

荒川 同世代の選手は、08年の北京五輪後に辞めた選手が多かったです。自分は北京のときにケガがちで、不完全燃焼だったから、4年後のロンドンを目指そう、まあ32歳だけどな…という感じでした。五輪で満足していたら、そこで辞めていたかもしれません。

「4年間頑張る」と決めた荒川を、またしてもケガが襲った。11年女子W杯を数カ月後に控えた時期に、今度は左すねを疲労骨折した。

荒川 1本でも線が入れば疲労骨折なのに、7本も入っていました。もう手術をしたくない、異物を体に入れたくないと保存療法を選んだけど、なかなか治りませんでした。グジュグジュしている傷みたいなものなので、バキっと折れていたら治るんですけど。

何か手はないか。人づてに情報を仕入れては、取り入れてみた。体に合わない食べ物を調べて、小麦粉や乳製品、コーヒーを控えた。酵素風呂にもつかった。山形に行って断食にも挑戦した。いろいろと試していくうちに、CT画像に変化が生じ始めた。

荒川 (12年ロンドン五輪に向けて調整したため)W杯には行けなくなって、ちょっと寂しい、苦しい気持ちも味わったけど、ケガで体を見直すきっかけを与えてもらったから、今もサッカーができているんだと感じます。食事にはより気をつけるようになりました。断食は19年のシーズン前まで、毎オフやっていました。今も試合前や疲れているとき、ケガしているときは、小麦粉を食べないようにしています。ストレスをためるのもよくないので、たまには食べますけど。

年齢を重ねるごとに、サッカーの楽しさも分かってきた。北京五輪の頃は感覚でプレーすることが多く、「頭を使えなくて怒られてばかりだった」というが、だんだんと駆け引きなどを楽しめるようになった。

荒川 北京の頃は、あまりサッカーを楽しめていない時期でした。でもケガをきっかけに体を変えられて、さらに頭も使えるようになったんです。サッカーの楽しさや奥深さを、30歳くらいで分かり始めました。08年に辞めていたら、サッカーを好きだったのか結局分からないまま終わっていたと思います。

ロンドン五輪には出られなかった。でも、たくさん悔しさを味わったからこそ見えた景色があった。昨季なでしこリーグでは、最年長得点記録を1カ月で2度も更新した。41歳になった荒川の表情には、充実感があふれている。

荒川 ケガをきっかけに、選手寿命を延ばしてもらえたと思っていて。長くやることで心から「サッカーが好き」と言えるようになったのは、すごくうれしいことです。いろいろありますけど、ずっとやれるならやりたいと思っています。

国内初の女子プロリーグの開幕は、荒川のサッカー人生のピリオドではない。通過点だ。【杉山理紗】

◆国内女子リーグの歴史 89年に第1回日本女子サッカーリーグが開幕。参加は6チーム。徐々にチーム数を増やして、94年第6回からは「Lリーグ」の愛称が採用された。04年からは2部制になり、同年アテネ五輪でのなでしこジャパン人気を受けて「なでしこリーグ」と呼ばれるようになった。Jクラブの女子チームも多く、WEリーグ開幕にあたっては大宮、広島が女子チームを新設した。

◆WEリーグ 国内初の女子プロサッカーリーグ。WEは女性の活躍を意味する「Women Empowerment」の略。なでしこリーグやJリーグと異なり、欧州のリーグに合わせた「秋春制」を採用しており、冬の中断期間を挟んで、5月21日または22日に最終節を迎える。試合のルールはJリーグとほぼ同じで、初年度の優勝賞金はJ2と同額の2000万円。当面降格はなく、現在の11クラブから段階的に増やしていく方針。試合のない1クラブは「理念推進日」として、リーグやクラブの理念に基づいた活動を行う。Jリーグ同様、ダゾーンで全試合生配信される。