FIFAワールドカップ(W杯)カタール大会は、いよいよ9日(日本時間10日午前0時)のクロアチア-ブラジル戦を皮切りに、8強が激突する。
中でも注目はモロッコ。伏兵のように思われがちだが、ジエシュ(チェルシー)やハキミ(パリ・サンジェルマン)ら一流のタレントがそろうスター軍団だ。アフリカ勢初のベスト4進出をかけ、ポルトガルに挑む。
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モロッコは老舗ブックメーカー「ウィリアム・ヒル」の優勝予想オッズで8チーム中7番手となる29倍(8番手は34倍のクロアチア)。世間では優勝候補とはみられていないようだが、侮ることはできない。
市場価値6500万ユーロ(約94億円)の右サイドバック・ハキミを筆頭に、ジエシュやマズラウイ(バイエルン・ミュンヘン)アゲルド(ウェストハム)ネシリ(セビリア)と、欧州各国トップリーグで活躍している選手が名を連ねる、アフリカ随一のスター軍団だ。
特徴的なのは右サイド。ハキミ-ジエシュの強力ラインを中心とした高速カウンターが突如発動する。実はモロッコの今大会平均ボール保持率は8強進出チーム中、飛び抜けて低い32・8%(7位がオランダの53・4%)。それでも電光石火のカウンターで好機をものにしてきた。
レグラギ監督は記者会見で「モロッコは優勝できるか?」と聞かれ、「我々は持てるすべてを出し切るという目標を設定し、1次リーグを突破した。それができたのだから、優勝も不可能ではない。アフリカのチームとして、今度はそこを目標に設定する必要がある」と力強く語った。
モロッコは今夏、かつて日本を率いたハリルホジッチ前監督を解任。指揮官と折り合いが悪く、代表引退を表明していたジエシュがチームに戻り、再び戦力が活性化した経緯がある。準々決勝の相手ポルトガルは「ボールを持てる」チーム。モロッコは必殺のカウンターをさく裂させるタイミングを虎視眈々(たんたん)と狙っている。
アフリカ勢では過去、カメルーン(1990年)、セネガル(02年)、ガーナ(10年)が準々決勝で涙をのんできた。だがモロッコの選手たちには「今度こそ」という期待を抱かせるオーラが漂っている。
○…ポルトガルはチーム内に火種を抱えて準々決勝へ臨む。かつては市場価格1億2000万ユーロ(当時約162億円)まで到達。現在は2000万ユーロ(約29億円)のロナウドが1次リーグ韓国戦で途中交代した際に監督に暴言を吐いたとされ、決勝T1回戦のスイス戦は先発を外れた。準々決勝でもロナウドの態度次第で空中分解の危険性をはらむ?
○…リバプールで主将を務め、イングランド代表では副将のMFヘンダーソンは32歳で市場価格も高くはないが、欠かせない存在。代表の主将ケーンも「彼は他の選手たちを叱咤(しった)激励して最高の状態に持っていくんだ。背後から彼の声を聞くのは気持ちがいいね」という。フランス戦でも闘志をむき出しにチームをけん引する。
○…フランスはノルウェー代表FWハーランドに次ぐ市場価格1億6000万ユーロ(約232億円)を誇るエムバペが攻撃の中心。高速ドリブルと正確無比なシュートで、今大会得点ランクトップの5点をマークしている。1列後ろから攻撃を組み立てるグリーズマンも絶好調で、エムバペとデンベレの快足コンビがより威力を増している。
○…ブラジルは市場価値1億2000万ユーロ(約174億円)というFWビニシウスが、左サイドから絶好機を演出する。3試合に先発し、1得点2アシスト。韓国戦の先制点は、ゴール前の人ごみを避ける絶妙なコントロールシュートだった。スピードに乗った突破力を武器にRマドリードでも不動のレギュラー。新エース襲名の舞台となりそうだ。
○…クロアチア20歳のDFグバルディオルの評価が一気に高まっている。市場価値はチーム最高の6000ユーロ(約87億円)。ダリッチ監督が「世界一流の選手になれる」と評価し、W杯後のビッグクラブ移籍が取り沙汰される逸材だ。フェイスガードの「バットマン」姿でさっそうとプレー。4試合でわずか2失点とチームを守るヒーローだ。
○…アルゼンチン・メッシのチームで新たに台頭したのが22歳FWアルバレスだ。豊富な運動量を生かした献身的なプレーで2得点を挙げ、評価は高まるばかり。今夏に加入したマンチェスター・シティーへの移籍金は1700万ユーロ(約24億6500万円)だったが、現在は3200万ユーロ(約46億4000万円)にまで高騰。その勢いは止まらない。
○…オランダで今大会で3得点とブレークし、その市場価値(4500万ユーロ=約65億2500万円)を高めているのがFWハクポだ。193センチの大柄ながら軽やかな身のこなしで、躍動感あふれるプレーが魅力。オランダ生まれだがガーナとトーゴにルーツを持つ。かつて欧州制覇に導き、バロンドールにも輝いた革命児フリットとも重なる。
<8強アラカルト>
▼起用選手数 ブラジルは控えGKを含めた26人全員を起用した。対照的に決勝T1回戦でPK戦の末に日本を退けたクロアチアは18人で最も少ない。選手の疲労度も勝負の鍵を握る。各監督がどうマネジメントするか。
▼得点、失点、布陣 総得点はイングランドとポルトガルが12で並び、得点者数もともに8人と最多。フランスは9点中、エムバペが5得点、ジルーが3得点と前線の決定力が高い。モロッコは4ゴールで最少だが、失点も最少の1と堅守が光る。2失点のオランダは基本布陣が唯一3バック。他の7チームは4バックで戦っている。
▼最年長、最年少 ポルトガルのペペ、ブラジルのアウベスが39歳で出場を果たした。ペペは決勝T1回戦で、W杯史上2番目の年長得点者となった。クロアチアは37歳のモドリッチが大黒柱。イングランドは最年少のベリンガムが19歳ながら全試合に先発し、中盤で不可欠な戦力となっている。最年長選手も8チームの中では最も若い32歳のウォーカーと、働き盛りのメンバーがそろう。