<陸上:日本選手権>◇最終日◇28日◇広島広域公園陸上競技場

 男女短距離のエースが、100メートル決勝を前にアクシデントに見舞われた。夢の9秒台を目指した塚原直貴(24=富士通)は左大腿(だいたい)二頭筋腱炎(けんえん)、女子の日本記録保持者・福島千里(21=北海道ハイテクAC)は右鼠径(そけい)部疲労により、決勝を欠場。今季の快記録連発による疲労と、超高速トラックによるダメージに襲われた。2人とも軽傷で、世界選手権(8月、ベルリン)は出場できる見込みだが、順調すぎたシーズンにブレーキがかかった。

 今大会最多2万5000人が詰めかけた会場で、主役2人のレーンがぽっかり空いた。100メートルの男女優勝候補が、準決勝を通過しながら決勝に臨めなかった。

 福島は11秒36で決勝に進んだが、右足付け根に張りが生じた。本人は出場を直訴したが、医師は「無理をしない方がいい」。中村監督は「高速トラックと、リレーを含めた(日本記録)5連発で、考えている以上に疲労が重なっている」と説明した。

 塚原は、追い風2・4メートルの参考記録ながら、準決勝で10秒09を出した。古傷の右アキレスけんをかばって、左ヒザ外側の腱(けん)に炎症が起きた。医務室で診断を受け、決勝を断念した。指導する高野コーチは「高速トラックの宿命。跳ね返りが強いので、ダメージがくる。それに打ち勝つだけの準備をしないといけない。トラックのせいにはしたくない」と話した。

 2人とも好記録を連発した今季の疲れがあった上、速いが硬い「もろ刃の剣」のトラックにやられた。200メートルを制した高平は予選後に「リスクを負ってやらないといけないくらい硬い。コンクリートの上にゴムがひいてあるみたい」と指摘しており、100メートルは回避したほどだった。

 会場のビッグアーチは昨年12月から今年3月にかけて、93年開場以来の全面改装に着手。摩耗したトラックの表面を2ミリ削り、3ミリを上乗せした。日本選手権誘致にあたり、日本陸連からの指導もあったという。管理する広島市スポーツ協会の梅田氏は「硬くて反発がある分、疲れも出る。下手をすると故障につながりやすい」と指摘していた。

 幸い2人とも軽傷で、世界選手権出場は問題なし。しかし、福島は7月の南部記念を欠場し、塚原は欧州遠征をキャンセルする見込み。好記録の裏にひそむ危険な事実を思い知らされた。【佐々木一郎】